美作地域の86家の大庄屋の調査をまとめた『美作の大庄屋〜故地をたずねる〜』の発刊
代表者:橋本惣司 所在地:津山市 設立年:1986年 メンバー数:7名 助成年度:2018年度 文化活動助成
活動の目的
2016年から、江戸時代、美作地域に存在した86家の大庄屋の屋敷、墓地、大庄屋としての活動などを精査し、研究発表会、見学会などを通じて市民に広報したり、それを120ページの本にして出版する。
活動の内容及び経過
2016年度から、津山老人福祉センター歴史講座のテーマを「美作の大庄屋」と決めて、美作地域の86家の大庄屋の調査を開始した。毎月第3水曜日に同センターの中型バスを利用して5~6家を調査対象とした。当該家の屋敷地、墓地などを撮影し、地図にポイント、一族や子孫、近隣の方から様々な情報を取材した。
各家を、1ページに留めることとし、ページのレイアウトを決めた。記載項目は①大庄屋になるまで、②大庄屋になって、③大庄屋としての働き、④所在地を説明し、地図にポイントする、⑤屋敷地と墓地の説明、⑥子孫についてとし、屋敷、墓地などの写真は3〜5枚程度とする。と決めて、講座生を班別に分け、86家を分担して調査、文章化してまとめてきた。全部の大庄屋の執筆を継続しながら、本の構成を、表紙裏に地図(美作の村と大庄屋が置かれた村)1、大庄屋制の成立2、大庄屋の前歴3、領主別大庄屋と在職一覧4、大庄屋が管轄した村々5、大庄屋に関する記録年表6、美作の大庄屋家86家7、大庄屋たちの近代として、裏表紙裏に地図(往来と大庄屋家の位置)を作成して、6、以外の項目を美作の歴史を知る会会員が担当して執筆した。全体の項目が完了したのち、会員によって文章の推敲、修正を重ねた。編集会議は、20回以上に及んだ。
活動の成果・効果
そもそも江戸時代、大庄屋制は慶長8年、松代城主森忠政が美作国に入封して、作られた。忠政が任命した大庄屋たちは、かつては尼子氏、毛利氏、浦上氏、宇喜多氏などの戦国大名の勢力に支配されていた国人層で、今も美作各地に残る山城に拠ってその地域を支配していた。したがって、美作を支配するために、彼らの力を利用するためにも大庄屋に任命することは得策であった。武士ではないが苗字帯刀を許し、彼らのプライドをくすぐりながら大庄屋職を与えたのである。忠政が津山城を築くとき材木や道具を提供し、人夫を調達し、城下町作りに尽力したのも大庄屋たちであった。石高18万6500石で入封した森家は、95年後に断絶したときは26万石に増えたのは、山上がりという村の移転事業によって水田面積が増加した結果であるが、その事業を積極的に押し進めたのは大庄屋たちの努力があったからである。
美作地域は大庄屋のもと触(構)ごとのまとまり、生活、開発、祭祀などが行われていた。現在、美作地域の86家の大庄屋を家ごと調査した。子孫が絶え、他所へ移住して屋敷跡、墓地が不明になっていた家もあり、薮や草木をかき分けて探し、近隣からの情報で発見した例もあった。今も屋敷地の所在がわからない家もある。すでに数年前よりプロジェクトチームを結成し、現地調査を含めて、文献資料から大庄屋の活動などを明らかにしてまとめてきた。これら大庄屋の資料はそれまで作成された例がなく、貴重な基礎資料と評価されている。
また、明治になり大庄屋制が廃止された後、それまで蓄積した財力と高い知識を持っていた大庄屋の子孫たちは地域発展のため殖産興業、金融業、教育文化、政治活動などの旗手として活躍したことなど明らかになった。中には私財を投げうって、地域に貢献した大庄屋の功績が明らかになった例もある。さらに、明治以後、大庄屋たちの子孫が新しい地域つくりに貢献したことまで調査研究物として出版した。この成果を発表することで地域の歴史を身近に感じた方が多い。その後、この調査のまとめをもとにした発表・講演会などを実施する予定もある。すべての調査を終えて、調査研究物として、『美作の大庄屋』を発行した。
今後の課題と問題点
大庄屋が果たした役割を86家について、あらゆる資料によって明らかにしてきた。出版した『美作の大庄屋』を読んだ方から“大庄屋○○家の屋敷間取り図がある。”とか“△△家は播磨国から美作へ来た”とか“備前岡山藩の大庄屋制度はどのようになっているのか?”などの様々な情報や質問が寄せられ、今までの地域誌の中で取り上げられなかった大庄屋の研究が、広がりを見せていると思われる。
しかし、それぞれの地域で歴史の興味を持つ人々に丁寧に説明していく努力をしなければならない。今後、津山市立図書館(9,10月)、津山市二宮歴史研究会(11月)真庭市文化協会(2月)、で「美作の大庄屋」に関わる講演会を実施する予定がある。美作地域に散在する歴史同好会(美作の歴史を知る会も)は「美作地域歴史研究連絡協議会」(歴史ネット)に包括されており、その組織を通じて大庄屋に関わる発表を実施する。