ゲーミフィケーションを活用した小・中学校教育への一考察
代表者:鷲田雅人 所在地:岡山県 助成年度:2014年度 教育活動助成
研究・実践活動のねらいと期待する効果
近年、小学生の学力低下が大きな問題となっている。かつては教育県と称された岡山県も同様で小学生全国学力テストにおける全国ランキングが36位と低迷している。岡山県に限らず、全国的な低迷の要因には2つの側面がある。
- 高等学校・大学への進学率が上昇し、昔に比べて学生全体の平均的な学力水準が落ちている。
- 一般的に「学ぶこと」に対する意欲、関心、動機、心構えが昔に比べて劣っている。
そこで、上記の2側面の解決を本研究実践の課題に設定し、近年、さまざまな学校において取り組まれるようになってきているCBT(ComputerBasedTraining以下CBTとする)による教育活動に着目した。
CBTには、時間や場所の制約がない状態で学習活動に取り組むことができる効率面でのメリットと動機付いていない学習者にとって学習効果が低いといったディメリットの指摘がある。本研究では、こうした問題の解決策として、ゲーム性を学習に取り入れた新しい学習形態による教育活動を試みた。現在の小・中学生は、生まれた時からゲームが身近な世代であり、ゲーミフィケーションの授業導入が学習意欲および学力の向上につながるのではないかとの仮説を立て、その効果を検証した。
教材には、インターネット上の評価・現場の教職員に対する聞き取り調査から、システムの完成度に対する評価が高い「デジタルスタディ(株式会社がくげいhttp://www.gakugei.co.jp/)」を採用することにした。
【ゲーミフィケーションとは】
ゲーミフィケーション(Gamification)とは、コンピュータゲームの中で特徴的に培われてきたノウハウを現実の教育活動に応用すること。2011年カリフォルニア大学サンフランシスコ校で実施されたサミットから広く使用されるようになった造語である。
研究・実践活動の内容と方法
1研究の流れ
具体的には、以下のような手順でゲーミフィケーションの検証研究を行った。
- コンソーシアムの立ち上げ…複数校の教員で情報を共有するためにコンソーシアムを立ち上げた。
- 奈義町立奈義中学校での検証授業…ゲーミフィケーションを取り入れCBTシステムを用いて、研究協力校における授業実践を行った。
- 被験者に対する調査実施…実証実験に参加した中学生に質問紙・聞き取り調査を実施した。
- 収集したデータの分析…収集した情報から統計分析を行った。
- 研究を総括する会議の実施…コンソーシアムメンバーによる総括会議を行った。
- 研究結果のまとめ…報告書を作成した。
なお、本研究のCBTシステムによる学習活動では、単元ごとの理解が短時間の実践でも確認できる科目として「数学」、短時間の実践で成果が確認できない科目として「国語」取り上げて実践した。
2実証実験の概要
【実施期間】2014年7月28日(月)〜8月1日(金)
【実施時間】13:30〜16:30まで
(1日3時間総実施時間15時間)
【場所】岡山県勝田郡奈義町久常193
奈義町立奈義中学校パソコン室
【調査対象】奈義中学校3年生(案内チラシ図1)
3「デジタル学習教室」実証実験の概要
【デジタルスタディとは】
全国の公立高校入試問題を分析して割り出した出題で、入試対策として3年間の総まとめに取り組むことができる学習教材ソフトである。また、クイズ形式で出題されて問題に回答し、誤った回答をした場合、その誤りを記憶し、繰り返し学習する際に再度出題されるようにしてあるなど、弱点補強が可能なシステムとなっている。また、得点をゲーム感覚で楽しみながら取り組むことができる。
【1日目】7/28(月)
奈義中学校3年団教職員・学習者が参加して、開講式を行い実証実験の意図を説明する。
事前調査(国語・数学)40分×2科目学習者が受験していない全国学力テスト過去問題を使用して学力を測定した。
【2日目】7/29(火)
国語・数学を中心に取り組む姿が見られた。高い集中力を保ち取り組んでいた。
【3日目】7/30(水)
漢字問題に取り組む。すぐに正誤判定がわかり、クイズ形式で楽しめるとの声が聞かれた。
【4日目】7/31(木)
前日に引き続き、漢字問題に取り組む姿が見られた。また、理科ドリルに取り組んでいた。後半は連日のパソコン利用で、目の疲れもあって、集中できなかった。
【5日目】8/1(金)
事後調査(国語・数学)・質問紙による調査の実施・閉講行事で、実質的な学習時間は1時間程度であった。この日は、事後調査を行うことは事前に伝えてあったため、国語、数学を中心に取り組んでいた。
なお、小学校での調査概要はWeb上にPDF化して公開した。(http://www.jpia.co.jp/ICT.pdf)
得られた成果及び評価
【中学生の感想】
・同じ教科・単元を連続して取り組むと飽きが出てくるので20分程度の短時間で教科や単元を変えていた。
・システムの操作に慣れてくると楽しく感じた。
・リアルタイムで学習結果が判定されるので、クイズ感覚で楽しい。解説より、問題チャレンジが楽しい。
・問題を繰り返ししながら、誤った答えを覚えていく感じでの学習をして点数をアップさせた。
・1時間ごとの休憩では、目が疲れてきた。
【スタッフ高校生の感想】
※今回の実証実験に協力した2名の高校生スタッフに対する聞き取り調査から
・デジタルスタディの解説を見てもよく分からない場合に個別対応するためのスタッフとして参加。参加の中学生から質問を受ける機会は全くありませんでした。中学生は勝手に繰り返しやっている感じでした。
【総括】
概ねCBTシステムに関しての評価は高かったが、休憩時間を上手く取り入れて集中力を持続できるよう学習者に合わることが大切であることが判った。標準の1単位時間は、中学生50分とされているが、CBTを活用した学習は30分の学習、短めの5分休憩とするような1単位時間を30分程度に設定し、被験者の学習に対する集中力・目の疲れ具合を総合的に評価して弾力的に変更していくことが必要である。
残された課題とその解決への展望
検証の結果、ゲーミフィケーションによって、ほぼリアルタイムに学習における理解度を測定したり、クイズ感覚で楽しみながら学習に取り組める学習形態は、主体的に参加した学習者にとって、集中力を持続できる効果が観察評価でも確認でき有効であった。これは、ゲーム感覚で抽出される苦手問題を繰り返し、学習者自身が自らの弱点を補強しながら、学習を進めることができたことによるものと考えられる。また、個々の学習者によって、自らのレベルに応じた適切な到達目標が設定される効果が見られたことは、大きな収穫であった。
学習者に対しては、個々の成績データを元に教員が適切なコーチングを行うことで、学習者の動機づけを高め、成績の向上につなげることができると考えられる。