3カ月に1回バンド・デシネ(BD:ベルギー・フランスを中心とした地域の漫画のこと)である作品を鑑賞する研究会を開き、BD雑誌刊行を決定!
代表者:猪俣紀子 所在地:岡山市 設立年:2010年 メンバー数:7名 助成年度:2011年度 文化活動助成
目的
日本では、まだまだ限られた人にしか知られていないバンド・デシネ(BD)作品の豊かな世界に触れること、また、英語教育の名のもとに、異文化といえば英語圏の文化が多数紹介されているが、ヨーロッパ、とくにフランス語圏の文化に接することで多角的な視点を持ち、異文化理解ができるようになること、そして岡山からフランスの文化を発信することを目的とする。
経過
日本でマンガはマンガ雑誌を初出媒体として、そこから単行本にまとめて出版されるケースがほとんどだ。それに対して、フランスでは単行本は描き下ろして、A4ハードカバーの48頁が1年に1冊出るのがスタンダードのペースである。日本でマンガが大衆文化として根付いた背景やマンガの表現的特徴をかたち作った過程には、このような流通システムも影響している。
今回、本研究会では、この日本のシステムに乗せてBD作品を日本で連載するプロジェクトを始動させた。2011年末に主にフランスで活躍する5人のBD作家(ジェローム・ブルベス、フレディ=ナドルニ・プストシュキン、フミオ・オバタ、クレール・フリスト、ガエル・ドゥアゼ)に描きおろし作品を依頼し、寄稿の承諾を得た。2012年4月、5人から原稿が届き、現在編集作業中だ。
成果
研究会メンバーで色々なBD作品を研究し、連載作家を決定した。選んだ理由は5人が全く異なった画風を持つためだ。絵柄だけではなくテーマも様々だ。妖怪をモチーフにした1枚絵、セリフのないコンピューターグラフィックス、ファンタジックなSF、自伝と非常に多様だ。フランス語圏のマンガの奥深さがかいま見える。また、それぞれ映像コンクールで優勝したり、フランスVJ(VideoJockey)コンテストで2位を獲得している才能豊かな新進気鋭の若手作家の連載承諾を得ることができた。これは岡山からフランス文化を発信するという目的からも意義深く、岡山のアーティストにも影響を与えると確信している。また、参加作家全員がプロジェクトに大変興味を示し、岡山で出版することを喜んだ。代表者は実際にフランスに足を運び、直接原稿依頼の交渉もした。日本ではまだ翻訳されていない作家たちの初の日本での出版で、さらに描き下ろし作品になる。本としての価値も高いと同時に国際交流としても大きな一歩だったと考える。
これらの作品を小冊子『KUE9』に2回連載し、3回目は1~3回分の連載を単行本にまとめて刊行する。異なるコンテンツを異なるシステムで流通させることでどのような異化作用が起こるのか。『KUE9』が作家と読者と掲載媒体にどんな影響を与え、どのような相互作用を生むのか。新しいメディアの可能性に期待がかかる。
今後の課題と問題点
課題1:まだ知名度の低いBDという媒体と、日本では知られていない作家たちの作品をどのように知ってもらうか。その機会をどう作るか、また実際に手にとってもらう流通システムをどう構築するか。
課題2:知られていない作家たちを発掘したり、子ども教育への還元など今後のプロジェクトは多々あるので、その調査や、実行に時間を割けるよう会員増員を視野に入れ、講演会活動など進めたい。
問題点:継続的にフランスの作家を紹介していくために、補助金など資金の恒常的な確保が必要不可欠であると考えている。