おかやまスケッチ

センス・オブ・ワンダー

環境学習プラザ「アスエコ」所長 山田哲弘

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  • 2025.03.24

私の生き方に強く影響を及ぼした本の一節を紹介します。「地球の美しさと神秘を感じとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることは決してないでしょう。たとえ生活のなかで苦しみや心配ごとに出会ったとしても、かならずや、内面的な満足感と、生きていることへの新たな喜びへ通ずる小道を見つけだすことができると信じます。地球の美しさについて深く思いを巡らせる人は、生命の終わりの瞬間まで、生き生きとした精神力を保ち続けることができるでしょう。」

この本の名前は『センス・オブ・ワンダー』。アメリカのベストセラー作家であり、海洋⽣物学者でもあったレイチェル・ルーイズ・カーソンが書いた本です。彼女は「沈黙の春」という本で化学物質による自然界への影響をいち早く警告した科学者でもあります。

センス・オブ・ワンダーを日本語に訳すと「⾃然の神秘さや不思議さに⽬を⾒張る感性」。例えば、「瀬戸内海を真っ赤に染める夕焼け」「真っ暗な空に輝く満天の星」「路傍にひっそりと咲いている真っ白な花」を見た瞬間、「綺麗だなぁ!」「美しいなぁ」と感じる感覚、新しいものや未知なるものに触れた時のワクワク!ドキドキ!の感動など、⼦どもの頃、私たちが「普通」に持っていた感性のことです。まさに地球の美しさと神秘さを感じとる力と言えるでしょう。

子ども達と一緒に自然観察をしていると「てっちゃん先⽣!キラキラした⽯があるよ!」、「このお花,かわいい♪」、「この葉っぱ,ふわふわ!」など、どんどん⾔葉が溢れ出します。その言葉のひとつひとつが子ども達の素晴らしい感性であり、私はこの⾔葉をとても⼤切にしています。そして、子ども達から発せられた言葉はその場ですぐに、参加している⼦ども達全員で共有するよう⼼がけています。そうすることで、⼦ども達の感性がどんどん磨かれていくと感じているからです。

さて、⼤⼈はどうでしょうか。これは私の感覚ですが、⼦どもから⼤⼈に成⻑するにつれて、前例や社会的な常識で感情をコントロールされることが多くなるため、この感性は⼼の奥に追いやられてしまう傾向が強くなっているのではないかと感じています。つまり言語や論理などの左脳系の思考になってしまうと⾔うことです。

この素晴らしい感性は⼤⼈に必要ではないのでしょうか。いいえ!私は大人だからこそとても⼤切だと思っています。

右脳系の思考がセンス・オブ・ワンダーそのもの。これは日々の暮らしを豊かにする感性であり、今の社会を生き抜くために⼤切な感性だと感じています。

地球環境問題は日々深刻さを増してきています。遠い世界の話だと思われていた地球温暖化も、台風の巨大化や豪雨などにより日本でも大きな被害が発生しています。地球環境問題の解決は社会的、経済的な問題が複雑に絡み合っているため一筋縄ではいきません。しかし、地球の美しさと神秘さを感じとる力であるセンス・オブ・ワンダーをすべての人が思い出せば、大切な地球を壊すようなことはしないと私は確信しています。私自身、この感性を大切にすると同時に、身近な自然体験を通して多くの方にその大切さを伝え続けていこうと思います。

〈出典〉ふえき 86号(2025年1月25日)