♯037 小林美希さん
ええがLabo 代表
1枚の写真の中に、魅力的なスーパーカブ(バイク)と素敵な風景が写っているInstagram「こばんとソラコ」。フォロワー数1.5万人のこのアカウントを運営する小林美希さんは、浅口市を拠点に情報発信分野で活躍するフリーランス。ライターとしてまちづくりに関わる小林さんの情報発信に対する姿勢について、お話を伺いました。(聞き手:森分志学)
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情報発信のスキルが活かせるかも
森分:浅口市の地域おこし協力隊として岡山にいらっしゃるまでの経緯から教えてください。
小林:私は大阪で生まれ育ち、4年ほど父の転勤でシンガポールに住んだことがありますが、基本的には大阪で育ちました。大学を卒業して、ジャパネットたかたに就職し、テレビショッピング部門で9年半勤めました。
大阪から長崎に移る際、長崎では交通手段が限られていたため原付を購入しました。その原付が気に入り、休日ごとに乗るようになり、全国各地を旅するようになりました。旅先では写真を撮るのが趣味となり、インスタグラムやブログも始めました。特に文章を書くことや写真を撮ることが好きで、旅先でその土地の風景を記録するスタイルを楽しんでいました。
お仕事ではテレビショッピングのディレクターとして、商品紹介の流れを考え、お客様に商品の良さや生活の変化を想像してもらうための台本を作ったり、チームでその内容を検討したりしていました。
森分:その後、岡山に?
小林: 2016年の冬にジャパネットを辞めることにしました。実家のある大阪に戻り、両親と暮らしていました。ただ、都会の生活が合わなくなっていて、転職活動をしてもピンとこなかったんです。それで、自然の近くで暮らす方が自分には向いていると感じ、地域おこし協力隊制度を知りました。
大阪からアクセスしやすい場所を探し、私はバイクが好きなので、雪が降らない地域というのが絶対条件でした。それで見つけたのが岡山県浅口市で、情報発信担当としての募集があったんです。
これまでのテレビショッピングの仕事や、趣味でやっていたインスタグラムやブログを地域の情報発信の活動に活かせたらと考えました。視察に訪れたときには、沖村舞子さんと当時の浅口市担当課の課長さんが対応してくれて、沖村さんのこれまでの経歴や地域おこしに挑戦する姿に感銘を受けました。浅口市や瀬戸内海の美しい風景にも心を動かされ、「ここで暮らしたい」と思って移住を決めました。
浅口市の素敵な景色を拡散する
森分:地域おこし協力隊としてはどんなお仕事を?
小林:当初はふるさと納税関連の仕事が予定されていましたが、制度の変更によりその仕事がなくなり、ほぼフリーミッションの形になりました。その中で、「協力隊新聞」を2か月に1回発行するようにし、市民の方々に浅口の地場産業や町内会の取り組みを知ってもらうための取材を行いました。また、SNSの運用も担当していました。活動期間は2017年5月から2020年4月までの3年間で、主に情報発信の仕事を中心に活動していました。
森分:特に印象に残っているエピソードはありますか?
小林:「あさくちさんぽ」というインスタグラムのアカウントを作りました。このアカウントは、私が発信するのではなく、皆さんに発信してもらおうという取り組みです。「#あさくちさんぽ」というハッシュタグをつけて、浅口市で撮った写真を投稿してくださいねとお伝えし、多くの方に浅口の魅力を広めてもらう仕組みです。
浅口市に来て感じたのは、自然の風景や星空がとても美しいということです。特にカメラ好きな方々におすすめしたくて、この取り組みを始めました。インスタグラムを使えば、浅口市でどんな写真が撮れるかがすぐにわかります。私一人で発信するのではなく、皆さんと一緒にハッシュタグを広め、浅口の魅力を共有する取り組みをしていました。
森分:どういう人が投稿してくれるんですか?
小林:風景写真を撮ることに興味がある方や、出かけ先を探している方が多いですね。若い方から年配の方まで使ってくださっていて、特にカメラが好きな方が多い印象です。
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趣味で運用していたインスタグラムが仕事に
森分:地域おこし協力隊卒業後はどのようなお仕事を?
小林:協力隊1年目の終わり頃からライターの仕事を始めました。最初は副業のような形で、協力隊の活動をしながら岡山県観光連盟のウェブサイト「おか旅」で記事を執筆していました。特に浅口に関する記事や、県内の観光スポットやお店の紹介を書くことが多かったです。
協力隊活動と並行して個人事業を本格化させ、協力隊卒業後は個人事業で様々なことに挑戦しています。広島のまちづくり団体が運営するウェブサイトの運営サポートや、バイク関連の記事執筆など、様々なお仕事をいただけるようになりました。また、趣味で運用していたインスタグラムアカウントが1.5万人ほどのフォロワーを持っていたことから、インスタグラムの使い方を教えてほしいという声を多くいただきました。その流れで、インスタグラムのレッスンや企業のアカウント運用代行も始めました。企業のアカウントを作成し、投稿内容を打ち合わせしながら運用を進める仕事です。
インスタ運用代行の良いところは、どこにいてもできることと、時間が固定されないことです。在宅での仕事が可能なので、特にママさんなどからの需要が多いです。私は独身ですが、旅をしながらどこでもできる仕事という点で、自分のライフスタイルにも合っています。今では、インスタ運用代行の方法を教えたり、一緒に仕事をしたり、チームで進める形になってきています。
森分:その他にはどんなお仕事を?
小林:インスタグラムの講師のお仕事をしています。代行だけでなく、SNSの使い方講座も行っています。たとえば、広島の留学生向けにセミナーを行ったことがあります。このプログラムでは、留学生が広島留学の良さを母国の方に伝えるためのスキルを学びます。その中でSNSの使い方を教える講師として呼んでいただき、フェイスブックやインスタグラムの活用方法をレッスンしています。
SNS初心者の方も多いため、誰が見てもわかりやすい写真の撮り方や文章の書き方をお伝えしています。また、普段の生活の中にも、見ている人にとっては知りたい情報がたくさんあることを説明します。日常生活が当たり前になってしまっている方でも、少し視点を変えることで、それが価値ある情報になることがあります。特別なことよりも、日常を発信することが重要です、とお伝えしています。
そのため、見る人目線で情報を発信することの大切さを強調しながらレッスンを進めています。
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お手紙を書くような気持ちで
森分:小林さんが発信するときに気をつけていることは何ですか?
小林:まずは、その情報を誰に届けたいかを明確にすることです。これを明確にすることで、適切な伝え方が選べます。例えば、留学生の話で言えば、母国の方に伝えるには日本語ではなく、その国の言葉で伝えた方が良いですよね。たくさんの人に知ってほしいと考えるのは良いのですが、コアとなるターゲットをきちんと設定することが大切です。
もう一つは、誰かの取り組みを発信する場合の姿勢です。私が協力隊時代に行っていた「協力隊新聞」では、地場産業や町内会の取り組みを取材して伝えていました。また、町おこしの活動をしている方を取材し、その活動を記事にして紹介していました。こういった発信では、情報を届けたい相手を意識することに加えて、取材対象の方のモチベーションを高めたいという気持ちを持っています。
記事を書くときは、その方へのお手紙を書くような気持ちで取り組んでいます。その方の背中を押したいという思いですね。取材を通じて「自分の取り組みを取材してもらえた」という喜びを感じていただき、記事を読んだ方には「明日からまた頑張ろう」と思ってもらえるように心がけています。この考え方は、地域おこし協力隊を経験したからこそ生まれたものだと思います。
森分:きっかけが協力隊時代にあったんですね。
小林:徐々にそう感じるようになったんですけど、記事にすると本当に喜んでもらえるんですよ。その後に「もっとお店に来てね」と言ってもらえたり、「これ持って帰りな」と手延べ麺などをいただいたりすることもありました。こうした交流を通じて、関係作りの一環だなと感じています。
廃業しようか悩んでいるというおじいちゃんがいたら、その方にもまた頑張ってほしいと思うんです。そういう気持ちが自然と湧いてきますね。
森分:地域の魅力って分かりにくいものもありますよね。それを伝えるのって難しくないですか?
小林:情報発信って編集されたものなので、フィルターがかかってしまうんですよね。私も、取材する方に確認するようにしています。例えば、こないだ北木島で石を使ったアクセサリーを作られている方を取材したときも、どのようにその方が自分を打ち出したいかを確認しました。その上で、私の解釈が正しいかどうかや、その方がどう伝えたいのかをすり合わせています。
また、見てくださる方の解釈も考慮する必要があります。発信する際には、あまり自分の色を出しすぎないように気をつけています。誰かの取り組みを発信するときは、その人の考えや活動を言語化するお手伝いをする感覚ですね。そうすることで、とても喜んでいただけることが多いです。
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現場で鍛えられた質問力
森分:言語化が上達したという体感もあったりするんですか?
小林:話を聞くときに大事なのは、その方の背景をどれだけ理解できるかだと思います。そのためには、下調べが重要です。事前にどれだけ調べておけるか、その上でその方と話す際に背景を理解し、その文脈で「こういうことをおっしゃっているんだな」と想像できるかが鍵になります。質問力を磨きたいんですよ。
森分:どのように質問力を上げていったのでしょう?
小林:幼少期は引っ込み思案な子でした。高校生のときに演劇部に入ったのですが、役者ではなく、照明や演出を担当していました。みんなで何かを作り上げるのが好きだったんです。裏方の仕事を通じて、コミュニケーション力が少しずつ鍛えられたと思います。その後、大学でも劇団活動を続けました。
就職してからは、テレビショッピングを作る仕事を通じて、質問力や忙しい中で効率よく聞くスキルを磨きました。有名な社長さんに確認を取るためにタイミングを見計らって質問する勇気やディレクション能力が鍛えられ、今の仕事にも大いに役立っています。
また、協力隊として活動しながら取材経験を積みました。取材では、どうすれば相手が話しやすくなるか、思いを引き出せるかを考えたり、話が通じないときは何度も足を運んだり、質問を変えたりして対応しました。その経験が、協力隊卒業後に他のメディアで記事を書く際や、クライアントワークでメディアの要望と現場の声の間を調整する力として活かされています。
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誰の背中を押したいのか
森分:インスタグラムで発信するときは、どんなことに気をつけていますか?
小林:ターゲットを明確にするという点は変わらないですね。ただ、背中を押す対象はインスタのアカウントの方向性によります。SNSは今や誰もが発信できる状態です。私がサポートする方は、主にビジネス発信を目的とした方が多く、ご自身のビジネスをSNSで知ってもらい、集客につなげることを目指しています。
その方々のアカウントも、誰の背中を押したいのかを明確にする必要があります。SNSもビジネスも結局同じで、誰かの背中を押したいという思いが、背中を押されたい人と出会い、勇気づける仕組みだと思っています。
発信に臆病になってしまう方には、「やらなければいけないのはわかっているけど、できない」という場合が多いです。そういった方には、「あなたの発信が誰かの背中を押す力になるから、発信はした方がいい」と伝え、そのマインドを持つようにお話ししています。
森分:お手紙としてのライティングで印象に残っている取材はありますか?
小林:北木島で石を使ったアクセサリーを作っている女性の話ですが、3年前にも別のメディアで取材させていただきました。その記事がきっかけで、「テレビ取材をしてもらえますか」という依頼があり、テレビ企画が実現したそうです。おばあさんが暮らしていた北木島がその舞台で、その女性自身はコロナ禍の影響もあってなかなか島に行く機会がなかったのですが、テレビ企画で島を訪れたり、直接面会が難しい時期にプレゼントを渡したりといった内容が放映されました。
その後、そのブランドの方向性が丁寧に見直され、テレビ放映もあったおかげで、今でもファンの方がたくさん訪れるようになったと聞いています。その事業を少しでも後押しできたと感じています。
また、協力隊時代からお世話になっている「上竹ホタルを守る会」の会長さんにも取材を続けています。ライターになってからも再び取材させていただき、「毎年見に来てね」と言っていただけるのが嬉しいです。鑑賞に来る人たちの存在が励みになるとおっしゃっていて、そういった活動のお役に立てているのかなと思っています。
森分:取材がきっかけでいろんな関係性が作られているんですね。
小林:ご縁が広がるのがライターの仕事の良いところだと思います。ただ、最近は取材に行かずに書く「こたつ記事」が増えています。現地に行かないで書く観光記事も多く、そういった記事では正確さに欠ける部分が出てしまうことがあります。現地に行って初めてわかることや、話を直接聞いて得られる情報があります。その場の雰囲気や、言葉のニュアンス、数年前と今で異なることなど、直接感じ取れることを大事にしています。
森分:ライターのプロとアマの差分ってどこにあるんでしょうか?
小林:私の場合、地域おこし協力隊として活動していた経験があるので、まちづくりで活動されている方とのネットワークがあり、そうした方々の活動の背景も想像しやすいんです。これが自分の武器になっているのかもしれませんね。
あと、バイクでどこにでも行くっていうのも武器で、だからこそ観光系の記事も書けるわけです。ライダー向けのウェブサイトの記事では、バイクに関する内容もすべて入れています。「ここでバイクを停めやすかった」とか、「この位置が最高だった」といったことも記事にします。やはり、誰に読んでもらうかを意識して記事を作ることが重要だと思っています。
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地方でフリーランスとして生きていく
森分:今後目指していきたいことについて教えてください。
小林:インスタのお仕事の部分や、地域に根付いて人の背中を押す活動を通じて、自由度を持って働きたい方々と一緒に仕事を作り、社会に貢献できる体制を築いていきたいと考えています。
インスタ以外にもYouTube、LINE、Xなど、さまざまなプラットフォームを活用した情報発信ができる人を育て、サポートを必要としている人と結びつける仕組みを作りたいです。それぞれの得意分野を活かしながら働ける仕組みを整え、実現していきたいですね。
森分:なぜそう考えるのでしょうか?
小林:ニーズがあると感じます。私の生き方を見て、「どうしたらそんなふうに生きていけるのか」と聞かれることもあります。地方でフリーランスとして生きていくには、リアルな仕事だけでなくオンラインの仕事も持っていると自立しやすいと感じます。その生き方やライフスタイルを考えると、広めていけたら良いなと思いますね。
(取材日:2023/10/19)