Girl Wearing Bandana
バンダナをつけた女
国吉や作品にまつわるコラムをA to Z形式で更新します。
女の人がひとり、籐椅子に寄りかかって両手でほおづえをつき、片方の手には煙草を持っている。顔はうつむきかげんで表情はよく見えない。悲しそうな感じでもあるし、何かをじっと考えているようにも、少しほほえんでいるようにも見える。頭に巻いた赤いバンダナが首の横から垂れ下がり、片方のひじの下に敷かれている。彼女が身につけているのはこのバンダナと、腰に巻いたピンク色の布───スリップか何かだろうか?───だけである。
彼女の肌の色はグレーがかかったブラウン、でも白や黄色も混ざった、とても微妙な色合いだ。そしてその肌とほとんど同じ色が、背景にも塗られている。
1930年代、国吉康雄はこのような柔らかな色合いの、ものうげな表情の女性像を数多く描いた。特定の女性を描いたのではなく、何人かのモデルをデッサンしたのち、半年ほど経ってから油彩画に取り掛かったと本人は語っている。女性たちのイメージを心の中で混ぜ合わせ、「ユニヴァーサル・ウーマン(普遍的な女、理想の女)」を描いたのだ、と。
彼女はどんな生活をしているのだろう。どこに住み、どんな仕事をしているのだろう?彼女の顔や身体の表情からは、家や男や組織に守られているという感じがしない。この人は自分の頭と身体をつかって働いて稼ぎ、世界の中でひとり、身を立てている人なのだろう。社会の中では弱い、でも人間としては強い、何十年も前のアメリカにいた女性を今も私たちはここに見ることができる。
こういった人を、自分が思い描く夢の女とした国吉康雄。彼もまた、世界の中でひとりの人間として、自分自身の力で生き抜いた。この女性は、彼の「同志」といえるのだろう。
本作品は、和歌山県立近代美術館での特別展「アメリカへ渡った二人・国吉康雄と石垣栄太郎」平成29年10月7日(土)―12月24日(日)に出展されます。
更新日:2017.10.16
執筆者:江原久美子