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#023 フォーラム Vol.8 トークセッション

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  • 2024.10.22

「災害」と「文化」のいま、むかし、これから

福武教育文化振興財団フォーラム「ここに生きる、ここで創るvol.8」―「災害」と「文化」のいま、むかし、これから をテーマに、永田宏和氏(NPO法人プラス・アーツ理事長)、大澤寅雄氏(ニッセイ基礎研究所 芸術文化プロジェクト室)、石原達也氏(NPO 法人岡山NPO センター代表理事)の3氏を迎え、語り合った内容をご紹介します。(2019年1月19日Junko Futake Hall)

和田 このフォーラムは、「ここに生きる、ここで創る」をコンセプトに、ゲストをお迎えしてお話を伺う企画となっております。今回は「災害と文化芸術」というとても大きなテーマになりますが、皆様お一人おひとりが、何か心に残るキーワード、または気づき、今後のヒントになればと思っております。
まずは、それぞれの活動のお話を聞かれて、感想や質問、気になるキーワードをお伺いしたいと思っています。

永田 大澤さんの、地震の1か月後に、避難所として開けるのではなく美術館を美術館として再開するという決断をした熊本市現代美術館の話。「文化」は災害に対して何ができるのかと、このフォーラムの発表用スライドを作るためにあれこれ考えて、堂々巡りを繰り返していたのですが、今日その一つの答が大澤さんの活動紹介の中にあるなと思いながら聞いていました。素晴らしいなと思いました。
僕らは防災教育をしていますが、防災だけではなく、防災をやりながらプラスアルファで「地域が仲良くなった方がいい」、「子どもの創造力が育まれた方がいい」とか、そういう効果も期待しながら活動をしています。

楽しいとか面白いが防災の原動力に

和田 大澤さん、お願いします。

大澤 永田さんから防災の話を伺うのは、これまでにも何度かありました。災害に備える話をいつもニコニコして聞いています。なぜなら、自分の創造力が動かないと、それに向き合うことができないと思っているからです。楽しいとか面白いというものが防災の原動力につながる。
今日の石原さんの話もそうです。まず石原さんのような人材が地域にいるかいないかだけで、相当大きな違いがあるだろうと思いました。一番驚いたのは、災害後の現場の動きに、ITC(Information Technology Coordinator)がスピーディーに、多様な人にアクセスし、大きな役割を果たしたことです。
一方で、防災や災害だけではないと思うのですが、ITCへのアクセスのリテラシーを持っている人とそうじゃない人で、ネットワークが届いているところと届かないところに差が生じていることが問題になってくるのかなと思いながら聞きいていました。

石原 おっしゃる通りですが、今回、単にインターネットを使ったから災害支援ネットワークおかやま(注1)に、たくさんの人が集まったのではないと思っています。普段付き合いがあって、そこでツールを使うことによって、その速度はあげられるのではと思っていました。
特に、今回SNSがあってよかったなと実感したことは、それぞれが、どこに行った、どこにいるという情報を得ることによって、どこに誰にお手伝いに行ってもらうとか、どこに何が必要かという対応が、スピーディーかつ的確にできたいところです。
話は変わりますが、北海道地震のときに、「寄付募集をインターネット上でしたいんだけど、電気が止まっていてできない。どうしたらいいか」と知り合いから相談があった時、代わりに僕が岡山でウエブサイトを作りますので、すぐにしましょうとお手伝いをしました。つながりがあると、よりできるんじゃないかと思いました。

究極の防災力ってコミュニティ力

永田 石原さんの話でやはりそうだなと思ったのは、「つなぎ」なんですよ、「つなぎ」。今、神戸のコミュニティ醸成系のプログラムもたくさん手掛けていますが、びっくりするぐらいつながらない。つながれてないというか、つなぐ人がいないんです。ちょっとつなぐといろいろなことが変わるし、防災面だけではなく……。町ももっと豊かになるし、暮らしももっと豊かになるはず。今日はそっち方面の話はスライドに入れてこなかったのですが、究極の防災力ってコミュニティ力だと思うんです。いうなれば、普段から知り合いになっている、つながりがあることが重要なんです。これは間違いないことだと思います。
今、神戸で一番、自分がワクワクしてやっているプロジェクトは「パンじぃ」プロジェクトです。おじいちゃんたちをパン職人に育てる。育った後は、皆さんめちゃめちゃ忙しくて、大活躍なんですよ。「パンじぃ」を神戸で30人以上育てていますが、パンを焼く技術はおじいちゃんたちに合っていると思います。あと家での自主練もすごいんです。アンケートを取ってみたところ、「スーパーに行くと小麦をついつい買ってしまう。」らしいんです。アーティストが地方にレジデンスして作品を作るのもいいですが、シェフが地方に行って、おじいちゃんたちをパン教室で指導する、みたいなことがあってもいいんじゃないかと思います。つまり、「クリエイティブ」ということに関しては、いろんな人が可能性を持っていて、それによって新たな人と人のつながりや人と地域のつながりが生まれることに大きな可能性を感じています。災害の時もそうだし、普段もそうなんだなというのが今日のお話を聞いていて思ったことです。

文化の背景にある災害にたどり着くと……

石原 ところで、日本には防災の文化があるのでしょうか。

大澤 文化をどうとらえるか、人によって違うと思いますが、大きくとらえると、文化の中に地域の祭りや芸能、歴史なども含まれると思っています。歴史を遡ると、祇園祭りというのは、菅原道真の怨霊と、実際に発生した災害が結びついて、いまだに祭りが続いている。災害民話、災害伝承は全国各地にはあって、オープニングの備中温羅太鼓の演奏も、桃太郎と鬼の伝説に由来した内容で、もしかするとその背景には災害があったとしてもおかしくないと思いした。
民話や文化財、祭祀、祭礼などには、災害、天災が背景にあって、そういうものと切り離せないものだと私は思っています。それを伝えていくメディアの役割、例えば津波に襲われた地域には「ここまで波が届いた」という石碑が建っていたり、石が昔から置かれてあったり、そういうのも文化でもあると思います。
だから文化と災害というのは全然遠い存在ではなくて、文化の背景には災害というものが、きっと探せばたどり着くのではと思います。

永田 昔の人は、田畑を耕したり、漁師だったり、災害や自然を普段から意識していないといけないというのが、日常の暮らしの背景にあったように思います。現代の人は、災害や防災について、怖いので敢えて何も考えないようにするところがあるように思います。そうではなくて、自然や災害との「付き合い方」の問題だと思うので、「付き合い方」のいろんなインターフェースを私たちが作っていけたらといいなと思っています。
高校生に防災について聞いてみたら、知ってはいるし、気にはなっているんだけど、正直興味はない。だけど、「防災博士の挑戦状」というリアル脱出ゲーム形式の参加型演劇と防災を掛け合わせた体験型の防災学習プログラムがあるのですが、そういうプログラムには高校生も参加してとても楽しんでくれるし、友達を誘ってきてくれたりします。深く防災を伝えられないかもしれないけれど、20年、30年と積み重ねていくことが大切だと思っています。そういう楽しく学べるプログラムをいろんな人が、作っていけたらいいなと思っています。

石原 個人的には、もう一回ちょっと暮らし方を考え直すいい機会になると思っています。小さなことですが、この3カ月ぐらい車生活をやめてみました。が、案外、自転車とカーシェアで生きていけました。それぞれの人が少しずつ災害をきっかけに、暮らし方の文化を変える、暮らしや文化を変えていくみたいなことも起きるのではと思っています。

和田 大澤さんは「災害と向き合うということと、普段から地域のことを知っているかどうかは関連している」と言われていますが・・・

大澤 フランスの社会学者ピエール・ブルデューは、資本には、経済資本、文化資本、社会関係資本の3つがあると言っています。文化と社会関係資本は非常に近く、3つの資本は連関して相互に転換していると思います。例えば、近所付き合いがいいかどうかというのは、お祭りを見れば何となく様子がわかったりします。盆踊りに人がたくさん集まってくるのか、いつも同じメンバーしか集まらないのか、文化資本であると同時に社会関係資本もそこに現れます。
災害があった時に社会関係資本というのは、危機も訪れますが、逆に新しく外からの社会関係というネットワークが一気に生まれます。石原さんのような方がいると、一気に社会関係資本は増える可能性があると思います。
でもそのつなぎ役、つなぐ人がいなければ、社会関係資本は増えないし、経済資本や文化資本も生まれない。社会関係資本を入り口にした災害への向き合い方というのを、どう文化が支えていくかということが非常に大きな問題だと思います。

「つながり」は頼む力は大事だと

和田 災害支援ネットワークおかやまは、災害から1週間で立ちあがって、多種多様な約170の団体が参加しています。そもそもあったネットワークが、災害支援ネットワークによって一つの大きなゆるいつながりになったと実感しています。

石原 人に物事を頼むことが、人と関係性を作る上で一番いいなと思っていて、普段からいろんな人にいろんな物事を頼めている人は、つながりができる人だと思っています。例えば、今日の会場Jホールは、これだけ美しいホールですから、椅子をわざわざ借りなくてもいいかもしれないけど、いや、ここは「ようび」さん(注3)にお願いしようとか。
頼む力は大事だなと思っています。もちろん、相手のことが信用できないと頼めないはずなので、相手のことを信用できる力というのはすごいことです。

大澤 信じる力でいうと、カエルキャラバン(注2)のゲームが不完全だというところが、おそらくゲームを使う方への信用があるかただと思うんです。これはどう使ってもいいんですよ、面白いと思うように使ってくださいと、「委ねる」という信用がそこにあると思います。そこにクリエイティビティを発揮させる「かかわりしろ」が生まれます。

永田 沖縄でカエルキャラバンの支援を行った時、まず呼ばれて行ったその当日に担当者から「永田さんごめんなさい。永田さんの今回の旅費で予算は使い果たしました。もう次に呼ぶ予算はありません。プラスアーツさんオリジナルの資器材も借りることができません」と言われたんです。「えー!」みたいなことになって、「じゃあもう全部自分たちで作ったらいいんじゃないですか」って提案したら、「俺、作れるかな。どうしようできるかなぁ…」って困って協力要請したら、周りの人たちやその知り合いたちが手伝ってくれて、どんどんオリジナル教材や資器材が開発され、最終的には、「カエルキャラバン」じゃなくて、「ヤモリキャラバン」ができた。キャラクターまでヤモリに変わったし、人形も消火器も全部地域の人の手作りで、原型の姿をとどめてないのですが、だからこそ、その土地のものになって、みんなが愛着を持って育てて、広げていってくれています。

和田 石原さんの方から、防災という言葉を「〇災」という言葉にという投げかけがありましたが、そのことについてもう少しお話をしていただけますか。

石原 避難所で200人1カ月間暮らすことになったらどうなるかということを考えるとき、単純に男女と分けるだけでいいのか、年齢的にも配慮が必要だろうし、子どもでも障害があったらどうするのか、そういうことを理解してしっかり考える力を付けていく必要性を感じています。みんなで話し合って、みんなで決めるトレーニングをもっとやらないといけないと思っていて、それを防災とは違う言い方として、ぜひ岡山の皆さんに教えていただきたいなと。

「災」だけで終わらない、終わらせない

大澤 僕は消防団に入っていて、毎年夏になると消防操法大会というのがあります。いかに早く確実に消防車やポンプ車の準備から消火までできるかという消火活動の基礎となる技術を評価するもので、大会前には週3日ぐらい練習をします。確かにこれも大事。大事だけれども、大会のための訓練になっているような気がします。そこから変えようとするのは大変なことなので、別の回路として、カエルキャラバンを消防団と子どもと一緒にやるというのは、ありだと思います。
「〇災」ということに関しては、聞いたことのあるのは「減災」という言い方。災害を防ぐのは難しいが、減らすことはできるのではないか、という考え方。僕は、災い転じて福となるということもある「災福」という言葉がいいなと思って聞いていました。「災」だけで終わらない、終わらせない。そのあとにきっと「福」がある。

永田 防災の「防」の字を変える話は、随分前にさんざん考えました。お世話になっているコピーライターさんとも話をして、「減災」という言葉を使うことも検討しました。でも「防災」という流通している言葉でもなかなか伝わらないのに、「減災」という言葉にしたらもっと伝わらないのではないかという話になって、やはり私たちのプロジェクトで使っていく言葉としては「防災」のままでいこうという話になりました。重要なのは、「防災」と謳っていても、取り組んでいる私たちは「減災」なんだという意識を持ち続けていて、つまるところ災害は人間の力で完全に防ぐことはできないと思ってやっています。
「防災+スポーツ」、「防災+お祭り」など私たちのプロジェクトは子どもを対象としたイベントが多いですが、感覚的には”逆”でもいいのかなと思い始めています。つまり「スポーツ+防災」「お祭り+防災」みたいな感じで…。スポーツがメインで防災もちょっと入っているみたいな感じというか、スポーツ大会とかスポーツ競技をやっていたら結果的に防災の知識や技も身についていたみたいな。「イザ!カエルキャラバン!」のキャッチコピーは「遊んでたら学んでた」ですが、そういう考え方は、正直防災だけを長年やってきた人にはおそらくできないと思いますし、言えないんじゃないかなと思っています。

和田 「防災教育は日本の文化」という永田さんの言葉とつながってくる感じです。

「防災」は、日本が世界に貢献できる分野の一つ

永田 防災という営みは日本の「文化」の一つだと言っていいのではないかと個人的には思っています。世界21カ国に、JICAや国際交流基金と共に「イザ!カエルキャラバン!」の取り組みを伝えに行っていますが、訪れた国や地域で避難訓練すらやっていない国が多いのが実情です。今現在は、ネパールでの防災教育支援に取り組んでいますが、数年前に6,000人以上の人が亡くなったとても大きな地震があったにも関わらず、多くの人々は耐震補強の施されていないレンガをモルタルで積み上げただけの非常に危険が建物に住み続けています。そういった国では、耐震の取り組みとともに災害時の想定した防災教育の普及がとても重要です。そこに日本の防災の知識や技がとても役に立っています。こうした支援は日本ならではの、まさに「文化交流」とも言える支援なのではないかと思っています。
国際協力や国際的な技術支援分野では、今世界的に中国が莫大な資金力をバックに中心的な役割を担っていますが、その中国ですら、防災教育分野に関して言えば、私たちを含めた日本から学ぼうとしています。「防災」は、日本が世界に貢献できる数少ない分野の一つではないかと思っています。

石原 個人的にすごく思うのは、なぜ小学校の体育館が避難所になって何百人が何か月も寝泊まりしなくてはいけないのかと。避難所の環境は、阪神淡路大震災からあまりかわっていないように思えます。これだけいろんな技術が進んでいるのだから、当たり前だと思っていることを改めて見直し考え直しアップデイトして、新たな文化にしていくチャンスだと思っています。

大澤 文化という視点で言うと、東日本大震災を経験したことで、地域のつながり自体も変わっていったと思うし、そこから生まれている文化というのは表現も変わって、それが伝搬していっています。ほっておいたら失われた芸能がたくさんあったと思うのですが、これを絶やしてはいけないと奮い立った人やその価値に気が付いた人がたくさんいたということです。私自身も、多様で豊かな芸能や祭礼があんなにあったんだと震災後改めて感じました。

和田 最後に一言ずつメッセージをお願いします。

大澤 ぜひ伝え続けてほしいです。忘れたいと思う方も多いでしょうけれども、後世に伝えていくようにしていただいて、岡山が「災い転じて福となる」ことを祈っています。

永田 私が副センター長を務めている「デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)」が掲げているスローガンが「みんながクリエイティブになる」です。今日のテーマは「災害」でしたが、防災だけでなく社会のあらゆる分野の課題に対して「クリエイティブ」な考え方を持って、取り組んでいただければと思います。

石原 第1回の災害ネットワークおかやまの会議を開いた時に、たくさんの方が来てくれて、すごく感動しました。岡山は今まで災害が少なくて、助け合いがなくて、防災訓練に人が来ないし、もし岡山で災害があったら大変だよと、さんざん他県の方に言われてきたのですが、それが実際起きてみると、多くの人が自発的に動き、みんなでどうにかしようとがんばった岡山の人に誇りを持っています。普段のことにつながっていくいい機会になればいいなと思いますし、今回は多少つなぎ役をしてきましたが、みんながつなぎ役になっていければいいなと思います。

(2019.01.19)

(注1) 岡山県内で災害支援に取り組む組織のネットワーク
https://saigainetokayama.org/

(注2)「イザ!カエルキャラバン!」地域の防災訓練を楽しく学べるようにアレンジした防災体験プログラムと、美術家・藤浩志が考案したおもちゃの交換会「かえっこバザール」を組み合わせた防災イベント。
http://plus-arts.net/project/ikc/

(注3) 西粟倉村で家具や暮らしの道具をつくっている会社
http://youbi.me/