#020 フォーラム Vol.7 トークセッション
一人ひとりのちょっとしたこと、
一人の一歩が全体の大きな一歩に
福武教育文化振興財団フォーラム「ここに生きる、ここで創るvol.7」―地域からの教育再生 をテーマに、柏原拓史氏、藤井裕也氏、原田謙介氏が片山善博氏を囲んで語り合った内容をご紹介します。(2018年1月13日Junko Futake Hall)
和田 進行を務めさせていただきます和田です。よろしくお願いいたします。このフォーラムでは、皆様お一人おひとりが心に残るキーワード、または今後のヒントを持ち帰っていただければと思っています。
早速ですが、片山さんは、今回初めて3人の活動内容を聞かれたとのことですが、感想や質問、また気になったキーワードなどを教えてください。
生活圏の課題を自分たちで解決する、それが身近なテーマだと
片山 3人の若い人のプレゼンテーションを伺って、感銘を受けました。さっき地方自治と教育の話をしましたが、その観点から見てもとても有益なことがいくつもありました。
最初の柏原さんの話からは、NPOとコラボレーションすることによって、地域の教育力がひろがると思いましたし、藤井さんの地域おこし協力隊の話からは、地域の視点ということですね。どうしても国の視点、中央の視点で日本は今統一されていますが、肝心なのは地域の視点。地域で今、何が課題であって、それを地域自らの力で提示していくことが必要だと思います。
それから、原田さんの若者の政治参加の話。特に町の政治行政について目を向けていることがとても興味深いところです。若者の政治教育というと、すぐに選挙のやり方とか選挙に行こうという話や、憲法の話とか防衛の話とかになって、それも大切ですが、別の視点で自分たちの生活圏の課題を自分たちで解決していきましょうということが一番身近なテーマだと思います。
あと、交流会で提供される瀬戸内茶や今座っている椅子の説明がありましたが、とても重要な話をさりげなくされていたので、ちょっともったいないなと思って補足します。新製品を作って新たな需要を作り出すのは大変ですが、もともと需要がある中で、外から持ってきているものを自分の地域で生産したものに置き換える―これは専門用語では輸入代替と言いますが―需要はあるわけですから、その気になればどんどん県内産に置き換わるわけです。そういう発想はとっても重要です。それがお茶の話と家具の話で出てきました。地元の産品、地元の生産品を使って消費者の皆さんに届けて、そこで雇用が生まれて地域経済が回るという地方創生の原点です。ぜひ地元のものを愛用しましょう。
和田 ありがとうございます。では、片山さんに聞いてみたいことを柏原さんから。
柏原 教育と自治という中で、責任を明確にして役割を発揮してもらわなければいけないという片山さんのお話を伺いながら、地方自治の伝言ゲーム的なところが課題ではないかと思いました。NPOの代表をしていますので、文科省の担当の方と話したりする場合もありますし、いろいろな提言を読んだりしています。とてもいいことを書いてあるし、担当の方もすごく熱心で、本当によく考えられています。にもかかわらず、地方行政の教育現場に行くと、その意図が伝わっていなくて、政策として義務的にやらされている感じがあり、ビルドアンドビルドになっています。
藤井 地域おこし協力隊は、特別交付税で運用されていて、内容については地方自治体の裁量が大きい制度です。しかし、制度が国から都道府県、市町村降りてくる中で制度の趣旨が十分伝わらないということがあります。
片山 課題は現場にあるわけです。ところが、その解決を考えて企画して、政策にする作業のほとんどを、今は中央がしています。課題は現場にあってそこにフィールドがあり、当事者もそこにいるわけですから、現場に近いところで課題を整理して、それを政策につなげていかなければならない。本当はそこのプロセス、現場に近いところでの企画力が大切なんです。
アメリカでは、市民が意見を言って議会がそれに応えて、お金がないなら増税しましょうと、それは市民も受け入れますという、そういう政治プロセスが見られ、地域の問題は原則として地域で解決します。
日本だったらお金がありません、じゃあ国に要求しましょうか、特別交付税を増やしてください、だめでした、やっぱりだめですという話になって、無力感で政治参画の機会もありません。地方自治の一番の基本は、自分たちの地域の課題は自分たちで解決するということなんですね。そこを忘れていませんかということ。これがないと政治参画の機会も生きてこないし、無関心が蔓延するということにつながるんじゃないかと思います。
若い人たちに失敗を供与する、そういう教育があってもいい……
原田 個別の課題じゃなくて、教育委員会や行政のマネジメントや仕組みの課題の解決に、当事者の中学生、高校生、あるいは小学生とどこまで共有すればよいのか、巻き込めばよいのか悩ましいです。そこに対する視点とかお考えを聞かせてください。
藤井 教育的な視点で、中学生、高校生からやっていくことだと思っています。まちづくりは自治のマインドを持った人が大事で、やはりそれは育てないといけないところがあるから、参画という過程が必要です。ただ責任は大人が持つべきだと思います。
柏原 手ごたえを若い人たちにゆずっていくことも大切だと思っています。社会に関わる中で持っていている手ごたえを自分で持っている限りは若い人たちは育たないと思うので。自分に手ごたえはあまりないなというぐらいの、大げさに言うと関係性があってもいいのかなと思ったりしています。
そのために、教育というのは大切だなと思っています。2校の高校にだっぴのお願いをしたことがありました。1校は確か、生徒会長がやりたいですと言って、やりました。もう1校は教頭先生がやりたいと言って、校長先生もやりましょうと、予算を付けますと言われたのですが、実現しませんでした。理由は、進路指導の先生が、「生徒にはできない、失敗するから、生徒会にはそういうことはやらせられない」と反対されました。先生や地域の人たちが、若い人たちの挑戦と失敗を供与するような、そういう教育があってもいいのかなと思うし、そういう流れが岡山でもできていけばいいなと思っています。
片山 高校生の皆さんたちにどうアプローチしたらいいのかという話なんですが、私の経験を言いますと、前の大学で学部の担当をしていた時、ゼミ学生には必ず実践させたことがあります。例えば、区議会に傍聴に行ったり、地域の課題を区議会に請願する能動的な行動をしたり、教育委員会のあり方を考えようというので、まずは教育委員会議に出て行ってみたり。自分たちが門戸を開いて何らかの変化が起きる、そういう一つの成功体験をすると、大きな力になると思います。
行政に頼らない資金循環をつくるため、地域経済と連携できないかなと
藤井 学校教育は教育委員会の管轄です。地域側から教育的な事業をしていく場合、助成金や公金で運営するというのがメインになっていますが、公的な事業だけど、行政と違うところに、もう一つ下に組織があって、そこに資金循環を作り、公的な事業に再投資していくような取り組みが必要だと思っています。みんなで何かを作って、みんなで売って、資金を得て、それを活用して、みんなで教育のために使っていくという仕組みです。公金だけの活動では、地域側で主体が持てないと思っています。
柏原 教育というのは、受益者からお金をなかなかいただきにくい。学び直しであれば、社会人の方から対価をいただいてやればいいので、大学や生涯学習センターなどで対応できます。小学生や中学生はもちろんですが、義務教育でない高校生でも受益者からお金をいただくのはなかなか難しい。その中でどうやって回していけばいいかというのがあります。行政に頼らない資金循環を作ると言った時に、地域経済に何かしら資金提供してもらったり、連携したりできないかなと思っています。
原田 まさに地域の企業と連携するのはありだと思います。もう一つ、行政のなかで絶対この事業にはこんなに予算はいらないだろうという、部分がおそらくあるはずです。地域で活動していくと同時に、主権者として行政、政治をちゃんと見張って、そこのちょっとやり方を変えましょうというところも模索しつついきたいです。
片山 小さい自治体でもかなりの額を使っているわけです。その中に無駄なものが1つや2つないわけがない、必ずあります。要するに選択の問題です。プライオリティ、優先順位の付け方の問題です。
政策の優先順位、取捨選択、本来これは議会がやるべきです。首長が予算案を作りますが、それが本当に妥当かどうかというのをオープンな場で議論して決めるのが議会です。議会に予算の決定権があります。議会はちゃんと議論していますか?-予算案を吟味していますか?-首長が出したものを丸のみしていませんか?―住民の意見、納税者の意見、NPOの皆さんなどの意見を聞いて、優先度の高い事業を決めていますか?
それから、ドネーション(donation)―寄付の復活。このJunko Fukutake Hallは、福武純子さんが岡山大学に寄贈されたと伺いました。日本は基本的に寄付文化というのは低調ですが、日本のこれからの社会にとって大切なことです。地域レベルでも社会貢献をしている企業に人材が集まるとか、投資される時代にだんだん来ているということだと思います。
自立的なマインドを持って事業を作っていく人材を
和田 今後どのように人材が必要だと思いますか。
藤井 地域おこし協力隊に関しては、自分たちが率先して、自立的なマインドを持って事業を作っていく人材が必要です。行政と地域をつなぐという役割もしっかり持ってほしいと思っています。一方で、外から来た人材が力を十分に発揮するために、地域側の受け入れ態勢も重要であり、地域側のコーディネート人材の育成も必要だと思っています。
柏原 どういう人材を育てたいかというと、人と人であるとか、いろんなものをつなぐことができるようなコーディネーター人材が必要だとは思います。ただ、みんながみんなそういう人材でないといけないかというと、そういうことはないと思っています。NPOだっぴとして作りたい、こういうふうになってほしいなと思っているのは、居場所を作れる力を持った人。いろんな関係性の中で人は生きているので、その中で自分の居場所を自分の周りにしっかり作れる人が、イノベーションを起こせる人につながっていくと思っています。
原田 前向きな暇な人が増えたらいいかなと思いますが、どうでしょうか。暇な人、暇を持て余しているという意味ではなくて、本業や本職、自分のやりたいことがあるけど、それ以外の時間もちゃんと生み出せて、いろんなことに関わり、知ったことをどんどん広げてくれる人。例えば専門的な人たちの話をうまく変換して周りに広げていく、支えていく、そんな前向きな暇な人。僕自身もそういう人になりたいなと思っています。
地域のために何が必要なのか、常に考える生活習慣、思考習慣が必要
片山 まず一般論から申しますと、企業から求められているのはグローバルな人材。しかし、日本の中を見ると、地域をどうやって支えていくのかということが大きな課題です。地域を大切にする、地域を支える人材も、グローバル人材と同様、もしくは勝るとも劣らないだけの重要性があると思います。郷土の歴史とか文化、伝統とか産業とか、どういう産業の可能性があるか、資源にはどんなものがあるか、そういうことをもっと丁寧に子どもたちに教えていく、そういう中から、自分がここで人生を全うして、みんなと一緒に地域社会を支えていくという、そういう気概も育っていくと思います。
私が鳥取県で知事をしていた時に痛感したんですが、東京から流れて来るニュースにはすごく関心を持つけれども、地域のことには関心を持たない・・・。我々の生活というのは、地域社会で支えられていて、自分たちも地域社会を支えていく、これが基本です。まずその視点が必要だと思うんです。地域のために何が必要なのかと、常に考える。そういう一つの生活習慣、思考習慣が必要だと思います。
今日ほど、地域がどんどんと疲弊している時代はありません。だから我さえよければじゃなくて、地域全体のことを考えなくてはいけない。行政だけではなくて常にみんなが、これは地域のためにちょっとでも貢献することになるかな、ならないかなということを一つの基軸に、考える基軸として持っていたらいいと思うんですね。一人ひとりのちょっとしたこと、一人の一歩が全体の大きな一歩になります。
(2018.01.13)