財団と人

#010 藤井裕也さん

NPO法人 山村エンタープライズ 代表理事

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  • 2023.04.20

地域おこしは、人を育て、彼らが生き生きと
希望をもって生きられる地域をつくること

引きこもりや不登校になっている若者。彼らは、学校や社会の中でみんなと交わるのが少ししんどかったり、苦手なだけ。そんな若者が山村暮らしをしながら人と関わり、自分を見つめながら元気を取り戻していく取り組みを実践しているNPO法人山村エンタープライズ代表の藤井裕也さんに、「人おこし」の取り組みを伺いました。(聞き手:平山竜美 財団事務局次長)

教育や福祉など縦割りになっている分野を
横串に事業をやることで新しい価値を創造

平山 山村エンタープライズの活動は何年目ですか?

藤井 活動自体は2012年の秋からで、今年5年目。もともとは田舎に若者が気軽に住める場所を作ろうということで始めた「山村シェアハウス」という事業をやっていて、そこから発展したのが「山村エンタープライズ」。
山村シェアハウスは、単身者の若者が1年間共同生活をしながら、地域の活動に携わったり、独自の企画を推進したり、山村シェアハウスを訪れる様々な人々と交流する中で、総合的な「田舎力」を身につけてもらう場所でした。例えば、地域のアルバイトをおじいちゃんから受けて、川の清掃活動や草刈りなどもしていました。山間部で単身者用のシェアハウスを作ったのは、全国的にも早かったですね。

平山 「人おこし」という言葉は、藤井さんたちが作った言葉ですか。

藤井 山村シェアハウスの第1期生の発案です。山村シェアハウスの入居者の中には引きこもり経験のある若者や不登校の高校生がおり、活動を通じて元気になっていったので、「藤井さん、地域おこしじゃなくて、人おこしをしましょう」と言われ、僕が「それいいね」と。地域おこしという言葉も古い感じがしてきていたし。
地域おこしと聞いたときに、みんな思うイメージが違います。地域おこしは、関係者の地域おこしの「目線合わせ」がとても大事ですが、僕らは、地域おこしの活動をしながら、人が地域で元気なって生き生きと働き生活している姿をみて、地域おこしは、人を育て、彼らが生き生きと希望をもって生きられる地域をつくることだと思いました。それからは、僕らは「地域おこしから人おこし」というキャッチフレーズで活動しています。様々な活動をこれまでしてきましたが、活動していくうちに彼らも元気になっていくというのが見えてきたので、不登校や引きこもり状態の若者を受け入れ若者自立支援と地域づくりを掛け合わせる事業に絞っていきました。
地域の活動に、教育や福祉分野など縦割りになっている分野に横串をさせるような事業をやることで、新しい価値を創造していけると思いました。普通の福祉施設にはできないけれど、僕らはずっと地域側で活動してきたので、地域でのつながり方とか、現場の様子とか、使える資源とかけっこう多くて、そこを特色として活動に取り入れていくというのは、あまりないと思っています。

平山 目指しているところは、どこですか?

藤井 若者がいきいきと希望を持って活躍できる社会を目指しています。しかし田舎はやはり高齢者が多くて、若い人が住むためのインフラ的なものや仲間が少ないのが現状です。山村エンタープライズで受け入れた若者の中には、就業した子もいるし、友達ができて次のステップができた子、そのままいついてくれる子も何人かいるので、そういう若者を増やしていきたいなと。
最近は、移住がメディアで盛り上がっていますが、ただ定住すればいいというのは違うと思っていて、生き生きとそこで生きるにはどうすればいいかというのを考えていく必要があると思っています。それは仲間や仕事、生活環境が大切だと思うので、それらを含めた環境をしっかり田舎にも作っていきたいと思います。
人おこしに取り組んでいくと、若者が成長し自立していく。その姿を見るのは僕らにとっては、すごい喜びでうれしいし、地域の人もよかったなあという感じで見守ってくれています。本人の親も喜ぶし、本人も良かった、みんな良かったということになる。かつ、使われてない資源も使えて、それで結果的に地域課題も解決するという面もあります。若者の活躍の場をつくり、担い手のないところに担い手ができることが重要だと思っています。

人間のシンプルな生活をしていくことで、
人が本来もっている力を高める

平山 成長して自立していくには、自然に囲まれたところの方がいい?

藤井 人が人を育てますが、環境も人を育てる。自然の多い環境はとてもいいと思います。

平山 たとえば、ちょっと便利のいいところより田舎の利点というのはどこですか?

藤井 便利さがないからこそ、人の創造性や興味が磨かれます。様々ことを体験して取り組んで創造していく体験をやっていくと、本人の興味につながっていくことがあります。
たとえば、高齢者の電球を買いに行ったりお手伝いをしているうちに高齢者の支援にやりがいを感じて、地域のケアセンターで働いている若者もいます。また空き家の改修をやっているうちに、建築が面白いから建築の勉強がしたいと、工務店に就職したり。そんな感じなんです。

平山 見守るのにチェック項目とかあるんですか?

藤井 私たちなりにチェック項目、評価項目は一応持ってますが、心理学の人、教育学の人など専門的な流派がこの業界にはいっぱいあります。
若者がひきこもり状態になる原因は多様かつ複合的なものです。福祉、教育、医療等人に関わる全分野が関連しています。だからこそ地域で分野を超えた包括的な取り組みが必要です。そして、ひきこもりという言葉は障害者のイメージが強いですが、障害はないけど親との関係が原因で、ひきこもっている人も多くいます。障害はないけども、ひきこもり状態になっている若者は、障害者をとりまく制度の枠組みでは支援できないため、私たちはその若者たちを中心にまずは支援していきたいと思っています。
ひきこもりの原因は多様だけれども、僕はもっとシンプルに考えていいと思っています。朝起き、日中ちゃんとからだを動かす生活をしていて、ご飯を食べてしっかり寝る。人間のシンプルな生活をしていくことで、人が本来もっている力を高めることができます。

平山 なるほど。

藤井 これまでの経験から言うと、ご飯を食べるのが別々になると、人間関係が崩壊してきます。ご飯を一緒に食べる、同じ釜の飯を食べるのはすごく大事。お互い一緒に食べるのは面倒くさくなってくることもあるので、そうしたら別々にしようという話が出てくるけど、それがいきすぎると人間関係が割れていきますね。

平山 ほかには何かありますか? 

藤井 何かまずやってみることを勧めています。何か一つ新しいことやってみると、次が開けるものです。人は、必ず成長すると思っているので、もう無理とかあきらめないで見守っています。

平山 食事を一緒にするというルールの他に、たとえば、嘘をつかないとか、そういうルールは?

藤井 シンプルでいいと思っていますが、実は今整理しているところで、僕が作ったら硬いとか、説教がましいとか言われてます。僕は意外と真面目なようです。笑

平山 こちらに来て6年かな。これはちょっと困ったよなあということは?

藤井 それはもうたくさんありました。

いろんな人がいるので、
「出ていけ」から始まって、「藤井がんばれ」まで

平山 その話を少し教えてください。

藤井 挙げればきりがありませんが、地域側の協力依頼が多く、休みなく働いていたけれども回らずにパンクした時と、地域のおじさんと喧嘩した時です。今考えれば未熟な己の責任ですが(笑)。

平山 地域おこし協力隊として入った時ですか。

藤井 はい。総務省の地域おこし協力隊制度が始まってまだ間もない頃に、地域おこし協力隊として初めて美作市に入り、担当地域が梶並地域という約700人の山間部の集落でした。当時は地域おこし協力隊は全国で200人程度でしたが、現在では3000人を超えています。梶並地域には非常に恵まれていて、地域の有志でつくる梶並地区活性化推進委員会というのがあり、受け入れ組織がちゃんとしてあったので、当時としては、非常に恵まれた環境で活動できました。また、行政のバックアップがきちんとありました。そういう面では非常に恵まれた地域であったというのは間違いないですが、地域にはいろんな人がいるので、「藤井出ていけ」から始まって、「藤井がんばれ」まで。まさに飴と鞭の世界。結果、地域に育てていただいて今に至ります。「地域で何が求められているのか、自分は何ができるのか」答えはないけれど、それを考え続けた日々でした。
地域おこし協力隊期間中、トライ&エラーを多く繰り返しました。100ぐらいトライした中で、3つ「成功」。「成功」といってもその中でも小さい失敗と成功を繰り返しているわけです。地域の事業の内実はこのような感じだと思います。

平山 山村エンタープライズを始めて、これは良かった、うれしいよねという事例はありますか?

藤井 うれしかったことは多くありますが、ここ最近で一番は、関東から私たちのところへ来た男の子の事例です。数年引きこもっていた彼の家にお邪魔して、ご両親のお話を聞いた時は本当に大変な状況でした。家でも荒れていたようですが、僕らの前ではそんな素振りは見せないんです。最初は私たちを含め、他人の顔色をよくうかがってましたが、こちらにきてからは、仲間ができ、仕事もするようになり、みるみる元気になりました。笑顔が戻り、仕事に行き始めた頃は本当にうれしく、スタッフとそのうれしさを共有できました。

平山 他はありますか。

藤井 不登校だった高校生の男の子を2年間程受け入れ、彼が無事卒業し、進学した時はうれしかったですね。自分の好きなことができて進学しました。ご両親が卒業式にこられない状況だったので私が代わりにでました。ここに来た若者たちは、自分は「社会から必要とされてない」とよく言います。ここに来た若者の中には、高齢者のお手伝いをして、おばあちゃんが喜んでくれる姿をみているうちに、自分は必要な存在なんだと実感して福祉職を目指した人もいます。

働く魅力にふれられる
プログラムづくりを心がけて

平山 今後、今の活動をこんなふうに進めていきたいとか、バージョンアップしたいとか、こちらの方にシフトしたいとか、夢はありますか。

藤井 僕らだけじゃなくて地域に住んでいる人全体で、若い人を受け入れる素地を作りたいという思いがあります。ひきもりの問題は、地域全体で包括的に取り組まないと解決できない問題です。また、地域内に理解者を増やし、しっかりつながっていきたいです。障害者の制度では賄えないひきこもり状態のグレーな若者たちが地域に多くいます。制度枠に入らない、制度のひずみにいる人たちのために、僕らのようなNPOの社会的役割があると思っています。

平山 これだけやってて、財源みたいなのは? 助成をもらえたり補助金もらえたりしますが。

藤井 今年度は、自主財源で650万、美作市から補助金が上限400万。借り入れが700万。借り入れはチャレンジしました。あとは寄付や商品開発した商品の売り上げがちょこちょこ。だんだん自主財源を大きくしていきたいです。人おこしのプログラムとしては、女性受け入れのための民泊事業、不登校生対象の通信制高校と連携したプログラム、働く魅力を見つける就労事業などを展開する予定で、今年度から実験的に初めているものもあります。

平山 就学プログラムというのは?

藤井 働く魅力にふれられるプログラムづくりを心がけています。本人に合わせて週1回数時間から様々な働く体験をします。現在、協力してくれる企業さんなどを訪問しており、既に入居者が仕事体験をしています。人おこしは、美作市の地方版総合戦略の事業の一つになっており、美作市の職員の方々と企業版ふるさと納税など使える制度を研究しています。

平山 通信制高校との連携事業というのは?

藤井 通信制を実施している高校と連携して、日中は一緒に地域活動をやってもらって、夜は勉強をして卒業資格が取れるような事業です。

平山 夢が膨らみますね。
引きこもりや過疎化のような、課題はがんがん増えています。それを課題と課題をひっつけて、新しい何かを、エネルギーを生み出すプログラムができて、こういう要素とこういう要素があれば、うまくいくというプログラムがあれば、全国で展開できる話ですよね。その需要はいっぱいあります。

藤井 今は、人口減少期で、特に田舎では一人ひとりのポテンシャルをあげなきゃいけない。ポテンシャルを上げるといったときに、どこを上げるかといったら、若い人のポテンシャルを上げることが必要だと思っています。引きこもり状態の若者を含めて、若者の可能性を引き出すことことと、若い人材を育てていくことが、地域づくり、過疎地の今後の大事な柱になってくると思います。

平山 たとえば朝起きて草を刈ったり、労働して、一緒に飯食って、それが本当に生きる力を育成するとするならば、自分たちがプログラムを決める、その時は説明できないけれども、実際そういう経験をしてきて、そういう人たちが元気になっていくというのは、力ですよね。

藤井 既存の福祉施設ではできにくいところをやっていますね。

平山 学校とも違うし。

藤井 あと、よく言われていることですが、やっぱり家庭環境が大事だなと痛感しています。子どもの頃に愛情をかけられるかどうかというのが、ひきこもりの問題を考える上で大事で、いずれ手を付けないといけないところになると思っています。

(対談日:2016.7.5)