財団と人

#008 原田謙介さん

特定非営利活動法人YouthCreate 代表

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  • 2023.04.03

若者と政治を結ぶ
仕組みづくりを目指して

若者は社会を創り、社会を担う新しい力……。今夏の18歳選挙権導入を前に主権者教育の重要性と必要性を訴え、活動するNPO法人YouthCreate(ユースクリエート)代表・原田謙介さん。岡山の地から全国へ、若者と政治をつなぐ必要性を発信していきたい、という思いを財団は応援しています。YouthCreateが目指す社会とは?原田さんにお話しを伺いました。(聞き手:平山竜美( 財団事務局次長))

平山 「若者の参画する街岡山」(3月20日)のキックオフに参加させていただいてました。大変、興味深かったです。若者と政治をつなぐ活動をされていますが、きっかけは何ですか?

原田 大学1年生の頃、江田五月さん(当時:参議員議員)のところでインターンをしたことがきっかけです。大学に入学したときに、世の中のいろんな仕組みにかかわる仕事に就きたいと思っていました。法律関係か政治関係、漠然とそのあたりに将来かかわるのかなとイメージしていて、政治家というところも何となく選択肢の一つとしてありました。
大学に入学が決まった頃は本当に政治を知りませんでした。新聞などを読むわけですが、政治はいまいちわからなくて、どうしたらいいのか思案してました。でもせっかく東京に行くのだから、政治を学ぶというより現場で政治に触れようと思って、インターンに入れていただいたのが、最初の政治との接点です。
国会議員とか秘書の方と行動を共にしていて、一番思ったことは、本当に若者に会わないなということです。結局、若い人と直接会わないということは、政治家が若い人のことを知るとか、感じるとかできないだろうし、逆に言えば、若い人が政治のことを知るということができないですよね。
同世代の大学生と話をしていると、政治家というのはお金に汚いとか権力を振りかざしているとか、負のイメージしかないので、そのあたりを払拭したいなと思いました。若者と政治家の間に立って、両方をちょっと引っ張っていくようなことができないかなと思っています。

仕組みと気づかれないような仕組み化を

平山 いろいろな活動をされてますが、最終的に目指しているところは?

原田 仕組み化です。抽象的で申し訳ないですが、仕組みと気づかれないような仕組み化。たとえば、今は僕らが外部のNPOとして中学、高校とかかわっていますが、生徒たちにとってみれば年間のイベントの中の一つ、特別なものなんです。それをもっと日々の授業の中で、どこか要所要所で、政治にかかわるとか、民主主義とは何かを伝えるなど、普通の授業の一部として受け止める、そういう仕組みづくりを目指しています。
あとは、若い人と地域の政治家(地方議員)が会うVoters Barを仕組み化したいです。これは仕組み化までは難しいかもしれないが・・・今は僕らが学生や町の若者世代と一緒に単発で開催していますが、この街では年4回そういう場があるよねと言われるように、もっともっと普通の仕組みに落としていきたいなと思っています。YouthCreateがいなくても、うまく回る、いろんなことが当たり前にできるという状況にしていきたいです。

平山 仕組みという形になれば、誰でもどこでもできるということですね。特に義務教育の段階とか高等学校の教育とか、大学というところで、引き継がれていくと、本当に常に変わっていくでしょう。

原田 積み重ねの仕組みが必要ですが、今は高校生中心というのが現状です。昨年秋文科省・総務省が共同で政治・選挙を学ぶ高校生向け副教材を作成し、すでに全高校生向けに配布されています。実は自分や岡山大学の桑原敏典教授も執筆のメンバーなのです。しかし、中学、小学生には政治を学ぶ教材はほとんどありません。僕の中では中学3年生、義務教育段階までで何をするかが重要だと思っているので、そのあたりはもうちょっと仕掛けていきたいと考えています。
神奈川県川崎市の教育委員会では、小中高の積み重ねのカリキュラムの中で、川崎市の教育改革として独自の主権者教育を推進し、取り組んでいますのでこの辺りも参考にしていきたいと考えています。

平山 どういうことに取り組んだらいいんですか?

原田 たとえば小学校だと、学区の町に出て地図を書いてみようとか、あるいは町の人と話をしたり、いろんな施設を見学したりしていますが、先生も生徒も、そういうことと政治がつながっているというイメージができてないような気がします。横断歩道一つとってもそうですが、あれも政治だね、下水道にも政治がかかわっているよね、みたいな教え方もできるわけです。政治のエッセンスを取り入れると、政治が身近になると思っています。
中学の公民、小学校5、6年生で習う公民的な部分、高校だと政治経済という科目がありますが、それは政治の仕組みを知るもので、僕らがやらなくてはいけないのは、政治を学ぶではなくて、政治にどうかかわるかということだと思っています。

平山 消防署や地域の下水道、そこに政治がどうかかわっているかという意識はないですね。

原田 消防士ってかっこいい大事な職業なんだよで止まっちゃうと、もったいない気がします。

平山 義務教育の段階から、先生にも子どもたちにも意識を政治に向けさせるというのは、生きていく上で大事です。

原田 絶対かかわりますからね。

政治的中立じゃない切り出し方ができる家庭

平山 家庭教育ではどのように取り組めばよいでしょうか?

原田 教育は、学校と家庭と地域の3つの組み合わせだと思っています。学校と家庭の明確な違いというのは、政治的中立じゃない切り出し方ができるか、できないかだと思います。政治的中立じゃない切り出し方ができるのが家庭です。少なくとも今の日本の学校現場では、先生個人の意見でこの政党を応援しているとは言えなくて、中立性に配慮した伝え方しかできないわけです。それはそれで大事ですが、僕もそういう立場でやってますが、関心を持ってもらうには議論のスタートとしては弱いですよね。
しかし家庭では、「お父さんはこういう思いでこの候補者に投票するんだ」と子どもたちに話すことができます。お父さんの意見を押し付けたらだめですが、子どもと一緒に、高校生は高校生なり、中学生は中学生なりに、小学生と小学生なりに中立じゃない議論のスタートができる良さというのが家庭にはあります。

平山 確かにそうですね。

原田 具体的な議論までいかなくていいんですが、家庭の中で日々新聞があるかどうかとか、夜のニュースを親が見ているかどうかというのは大切です。やはり親の背中を見て育っていく子どもにとっては、環境は重要だと思います。家庭でも広く見て、おじいちゃんおばあちゃんまで入れると、おじいちゃんおばあちゃんの方が若い世代よりも当然、政治や地域のことへの思いとか関心が高いですよね。学校とは違う日々の生活で、大人の生き方が実際に見せられると思うし、そこが家庭の面白いところかなと思います。
投票に行く方の調査を見ていると、幼いときに親について投票所に行ったことがあるという方は、投票に行くんですよね。今不安なのは、親世代が投票に行かなくなったこと。昔は親から子へだったけど、これからは学校で学ぶ中学生が親を投票に行かせるようになったらいいなと。お互いの意見を伝え合うというのは家庭の中で一番面白いとこだと思います。

平山 お父さん、今日は選挙の投票日じゃないの?行かないの?って子どもが言うのは面白いですね。

原田 出前授業に行ったときには、実際に投票に行くとはどういうことなのか、お父さんやお母さんに聞いて来てくださいと子どもたちにお願いします。投票に行ってない両親もたくさんいるだろうと思いながら言うわけなんですけど、そういう仕掛けはやりたいかなと思います。

平山 お父さんは行かなかった、うちの親父は行ったよとか、教室の中で月曜日の話題になるなんて、面白いですね。

原田 共通の話題ができます。

地域のおもしろさは人の多様性

平山 社会教育では?

原田 社会教育というのはいわゆる、学校でも家庭でもない、社会教育というより地域と考えていいですか。

平山 はい。

原田 地域が面白いのは人の多様性だと思っています。世代もそうだし職業も、価値観だったり、年代だったり、いろんな人がいて民主主義が機能しています。町の政治という点からいくと、地域の人と話すのがドンピシャなんです。ずっとこの町で住んいるという世代の上の方であれば、町の移り変わりも知っていますから。
社会教育や地域で何かやるという場合、結果集まっている人が60代、70代だったり、逆に若者だけだったりというのは、地域で取り組んでいるとは言えないと思ってます。地域でという場合は、多世代のいろんな人が集まるということを前提におかなきゃいけないと思ってます。

平山 子どもは子どもだけ、若者は若者だけ、老人会は老人会だけみたいに地域の中で分かれてしまっているところを政治の話で崩す?

原田 政治をメインにして、若い人と上の世代が価値観が全然違うということを知るということも、もちろんいいと思いますし、逆に言えば政治をメインにしなくてもいいと思います。
グリーンバードというゴミ拾いの活動があります。岡山にもチームがありますし、僕は東京の中野区のチームのリーダーをしていて、月に3回ゴミ拾いを主催しています。そこは本当に多様な人が集まっていて、中野区に70年ぐらい住んでますという80歳近いおじいちゃんから、中学生、僕ぐらい、大学生の人、50代の社会人が参加しています。そこでゴミ拾いをしながら様々な話をします。選挙が近づけば、誰かが「今度区長選だよ」と話題を出すと、「町のこの辺りの建物が変わるんだね」という行政の話になったりもします。その場面が面白いです。

平山 面白いですね。

原田 必ずしも政治を目的としなくてもいろんなことができます。

平山 全国にそういう仕掛けを?

原田 先程の小学校の教育と同じで、ゴミ拾いをしている人自身が政治とつながっているということを意識してない人が多いです。町づくりに携わっている人でも、政治とかかわってない人がけっこういます。
たとえば、最近だと都心の学生たちが過疎地域に定期的に入って、過疎地域をどう盛り上げていくかということをしている学生がいたり、あるいは都心の中で商店街をどう活性化させるかということをやってるグループいますが、過疎地域に入っている学生が地方創生のどういう流れで国の予算が地方に入っているかを知らない人もいたり、行政から商店街への支援金や補助金などが年間どれぐらい、どういう枠で入っているかも知らない人もいます。それはけっこうもったいないと思っています。政治の施策を肯定しろというわけではないですが、その状況は知っておく必要があると思います。知ったうえで、一緒にやって相乗効果を高めれそうであればうまく活用するればいいと思っています。

平山 私たちの生活は、政治とどこかで絶対につながっていますから。

原田 政治を学ぶというのはあまり使いたくなくて、政治にかかわると思っているので、つながっているというのはわかります。多少きれいごとになるかもしれないが、つながっているものを変えられるのは、自分たちが変えれるんだという思いです。つながっているけれども、どうせ変えれないやと思うのは面白くないですよね。

平山 意識して思うことは次の行動につながっていく、また行動することによって何かがつながっていく、広がっていくという、点から線へ、面へというイメージも、自分たちが何か変えたいという意識がないとできないですよね。

原田 変えたいという意識を持ってもらうのがすごく大変です。中野区の隣、杉並区地域の活動をしている同じ世代の仲間と話したときにこんなエピソードを言っていました。「高校生や大学生に何がやりたいのか、これについてどう思うかみたいな話をしても最初は『わかんない』とか『特にない』という返事しか出てこないんです。」当然急に聞いたら出てこないし、あったとしても恥ずかしかったり、緊張してたりして言えなかったりします。いろんな角度から視点を与えていくと、いろんな話が出てくるようになります。そういう引き出し方をしっかりやることです。何か変えたい、何かやりたいということを引き出す仕掛けというのがすごく必要なんだと思います。
政治でいえば、選挙のときに政治のこと、国のことをどう思うかと聞かれても、何も出てこないのは、やはり日々の生活の中で政治を考えていないということだと思います。それはおそらく、日本の教育の中で、今まであまり重要視されてこなかった自分の意見を出すとか、自分の意見と他の人の意見で話し合いをするとかということを、これからは教育の中に取り入れていく必要があると思っています。

探検家のように、開拓者のように

平山 今後の活動の方向は?

原田 学校現場で僕たちかやってきたプログラムは冊子にして、希望する先生や同じような活動をやっている学生たちに、「使えるならば使ってください」と無償で渡しています。地方議員と若者が話し合うVoters Barはマニュアルを作っていて、プログラムがどんどん広がるようにしていこうと思っています。
YouthCreateが全国組織になるというのは全然考えていないです。多分なれないと思いますが・・・(笑)若者と政治をつなぐ担い手がいかに増えるかが大切だと思っています。僕らの知見やこれまでやってきたことは渡すし、同時に一緒にやろうよ!という状態を広げていかないと、このままだと、YouthCreateが特殊な組織だねということになりかねないです。若者と政治をつなぐということをやっている人がもっとたくさんいれば、それは1つの組織がドーンとあるより、100個組織があった方が普通っぽくなるので、そういうノウハウをどんどん渡して、がんばってくれという仲間を増したいというのが組織のあり方の一つかなと思ってます。
この半年間、学校現場にすごく行けて面白いんですが、そろそろほかの、「政治と若者をつなぐ仕掛け」もやりたいと思っています。いろいろな活動をしていく中で企画作りに関して2つイメージがあります。1つは探検家みたいに新たなステージを作っていくイメージと、もう1つは開拓者みたいにステージを広げていくイメージです。探検家というのは、コロンブスのように、アメリカ大陸を発見することです。それは多分その人が行きたいから行ったということです。

平山 新たなものを世の中に見せたというような。

原田 そうです。結果としてコロンブスが行ったからあそこに大陸があるんだと、みなが行くというような、やり方で道を示しとけばいいという。
開拓者というのは、コロンブスが入った後に西部開拓をしていくときに、そこに町をつくったり、地ならしをした人たちです。その2つのイメージを持っていて、今回も学校現場でいろいろ活動できて、まだまだもちろんやらなくてはいけないが、まさにこの主権者教育というのは広まってきていて、開拓者の段階に入ってきています。
いろんな主権者教育プログラムをどうしっかりしたものとして広めていくか、ということのフェーズになってきています。となると、またどこかのタイミングで探検家の方にも、そのルートがあったんだみたいな、若者と政治をつなぐルートを作り出したいです。そのあたりのバランスをどう取っていくかが、これからです。

平山 自分自身の原動力は何なんですか?

原田 何でしょうか。探検家的な方は、えらそうな言い方になるかもしれませが、自分が初めてやった感じですかね。だから、予想外の反響があるし、予想外の広がりになるます。もう一つは、どんどん全国で同じようなことを目指している下の世代が出てきていることです。その世代とも切磋琢磨しながら一緒にやっていくのは刺激になりますね!

対談日:2016.4.7