国吉康雄 A to Z

Crown

クラウン

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  • 2023.01.31

国吉や作品にまつわるコラムをA to Z形式で更新します。

1949年 | グワッシュ・紙 | 152cm×205cm | 福武コレクション蔵

戦後、国吉は日系人の強制収容や、原爆の被害者を支援するための活動を行う。日本に行くことを希望し、陸軍に志願もしたがポストがないと断られた。国吉はウッドストックでチャリティーを開き、大勢の前で即興で絵を描くと、その収益金を強制収容された人々に寄付する。

一方、1946年から1947年にかけて、アメリカ国務省が作品を買い上げ、その主催で開催された巡回展、『前進するアメリカ美術展』が、マスコミによるネガティブ・キャンペーンなどにより中止に追い込まれた。イリノイ州選出のある下院議員が議会でした発言で、当時の状況がよくわかる。

納税者の負担で国務省が巡回させている(国吉康雄作の)『休んでいるサーカスの女』やほかのクズみたいな作品は、外国で害を撒き散らしている。アメリカ人をぞっとさせたあの絵、『休んでいるサーカスの女』は、素晴らしいアメリカ美術の代表として国務省が外国に送り出したとんでもない絵画の典型だ。
こういった発言の背景には、国吉のこれまでの様々な活動や国吉の身分であって、この展覧会の原資がアメリカ国民の血税であることが強調され、敵国人である国吉が国家の代表でいいのかと暗に、時に直接的に叫ばれた。この、『前進するアメリカ美術展』で湧き上がったバッシング騒動が拡大していた、1949年のチャリティーで描かれたのが、『クラウン』だ。

肉を包むのに肉屋が使っていたため、ブッチャーズペーパーと呼ばれる厚手の茶紙に、グワッシュで描かれた152×205cmの大作で、道化(クラウン)のマスクが画面いっぱいに描かれている。

道化やマスクという題材は、それまで多かった女性像から入れ替わるように、この頃から登場するようになる。道化やサーカスを題材にした作品が、この時期制作される油彩やカゼイン画の大半を占め、色彩も一見、明るさを増してはいくが、代わりに登場人物たちの表情の持つ意味は、サーカスという題材ゆえのメイクや仮面で、以前の女性たちの表情にも増して曖昧になり、見る者の感情や経験によって、左右された。

更新日:2016.06.15
執筆者:才士真司