国吉康雄 A to Z

Mr.Ace

ミスターエース

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  • 2023.01.26

国吉や作品にまつわるコラムをA to Z形式で更新します。

1952年 | 油彩 | 116.9cm×66.1cm | 福武コレクション蔵

国吉康雄最晩年の油彩画。故に最高傑作ともいわれる。国吉にとって仮面や仮面をつけた人物というモチーフはかなり重要なものなのだけれど、この作品で描かれた人物(道化師)は、その仮面を脱いでしまっている。国吉の作品で仮面を脱ぐという行為はこの作品以外には確認されていないし、他の画家との比較においても珍しいモチーフだといえる。このことが意味することは何なのでしょう。作品を見てみましょう。描かれているのは確かにサーカスの道化師で、テントの中なのだろうか。どうにも判然としない不思議な空間に佇んでいる。画面は透明感のある鮮やかな色彩に彩られ、幾層にも重ねられたこれらの色は、国吉自身の言葉を借りるなら、まさに「色に命を」与える作業の成果で、この不思議な色には、国吉が人生をかけて習得したあらゆる技法が集約されている。一方で素顔を隠すはずであり、商売道具でもある仮面を脱ぎ、素顔を晒しながらも、まるで仁王像のようなポーズを決める道化師。その口はまさに、すべての終わりを意味する「吽」の一文字のように結ばれている。そしてこの表情。皆さんにはどのように映りますか?笑みを浮かべている?哀しみに覆われている?この絵に対する印象は人によって様々。この絵の面白さは、エースの前に立つ人の気持ちを合わせ鏡のように写してしまうところでもある。それは、達磨大師の肖像のようにどこから見ても目が合う、その視線によるところも大きいと思う。
アメリカの国吉康雄研究家のトム・ウルフ氏は、エースという言葉を、「切り札」や、絶対的なヒーローという意味だけではなく、二面性のある、裏の顔を持つ人物をも指す言葉だとも紹介している。また晩年に国吉からミスターエースの意味を聞いたという国吉の教え子であるスティーブン・ドーフマン氏は「映画からインスピレーションを得た作品だ」と語る。その映画の主人公は、アメリカらしい男性像を演じることに疲れたという設定で、その映画のタイトルが「ミスターエース」。

更新日:2016.04.28
執筆者:才士真司