フォーカス

自分の得意なことを知り、自分を高めることができるフィールドを持てた

潮上侑奈さん

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  • 2022.11.24

だっぴと出会って、一歩踏み出した高校生。今、大学1年生。何を考え、何に向き合い、そして、何を目指しているのか。潮上侑奈さん(岡山大学教育学部)にフォーカスする。(取材・文/川崎好美)

潮上侑奈さん

――学校園支援ボランティアで、母校の小学校に関わる

高校1年生のころ、倉敷市の「学校園支援ボランティア」を利用して、卒業した小学校でボランティアをはじめました。最初は一人でした。「琴浦南おたすけ隊」。

現在は、大学生の私、高校生2人、中学生10人で取り組んでいます。特に募集をしたわけではないですが、活動をしている私を見て「一緒にやりたい」と声をかけてくれる仲間が増えていきました。

運動会や学芸会、参観日などの受付や誘導、準備、片付けなどを担当させてもらっています。なぜ、ボランティアをするのか?と聞かれると「卒業した小学校のお手伝いがしたい」という至ってシンプルなものです。小学6年のころの担任の先生に、その思いを伝えたら、小学校に繋いでくださり、受け入れてもらうことができました。

スポーツ参観日:検温と消毒の受付しているところ

――新型コロナウイルス感染拡大という壁に

新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、様々な行動制限がかかり始めました。ボランティアどころか、自分の学校生活ですら、長期休校もとなり、部活動も、「再開、停止、再開」の繰り返しで、落ち着いて集中して活動できない日々でした。

「おたすけ隊」の方はどうなったのか…というと、コロナ拡大のため、小学校に立ち入ることはできなかったのですが、かえって「時間はあった」ので、そこでできることを考えました。

一つ目は、シトラスリボンプロジェクト。

コロナ禍で生まれた差別、偏見を耳にした愛媛の有志がつくったプロジェクトです。 愛媛特産の柑橘にちなみ、シトラス色のリボンや専用ロゴを身につけて、「ただいま」「おかえり」の気持ちを表す活動を広めています。リボンやロゴで表現する3つの輪は、地域と家庭と職場もしくは学校です。

コロナ禍で生まれた優しさのあるプロジェクトです。コロナ差別や偏見をなくし、誰もが地域で笑顔で暮らせる社会にという思いを込めた「シトラスリボン」を家で作り、配りました。おたすけ隊の仲間を作って、小学校で配ってもらえるように、連絡をしました。

もう一つは、小学6年生に向けた企画です。小学6年生は、中学校に入ることがやっぱり不安です。コロナ禍だからこその不安もたくさんあります。そうした不安を解消できるのは、現役中学生でしかない…。おたすけ隊の中学生チームで「新聞づくり」をしました。

小学校の先生に見てもらい、ぜひ、小学6年生に配付してもらえないかなと相談しました。その後、小学6年生にお話をできる機会をいただきました。

私は高校生だったので、先生とのつなぎ役、アドバイスやサポートに回ることにし、表に出るのは中学生。

――ゆるやかなつながりが継続のポイント

コロナ禍は続いていますが、今は学校行事なども再開され、また、ボランティアに取り組めるようになりました。いつも活動が終わった後、学校の会議室を借りて、振り返りの時間を取るようにしています。例えば、行事の時にプラカードを持って、案内や注意を促す役割もあります。伝え方って難しいですね。なんのために、その動きをしているのか。あと、みんなの認識をそろえたりということは、かなり大事なことだと、取り組みながら思いました。

最近では、一緒にボランティアに加わりたいという声も受けるようになりました。一応、LINE電話などで「面接」みたいなことをします。「何のために?」「どんなことがしたくて入るの?」と尋ねてみます。

ボランティアの調整窓口は私がやっていて、学校の先生に行事予定表をいただき、そこから取り組めそうな日をピックアップして、みんなにLINEグループでお知らせします。

「その日、行けまーす」「無理でーす」とゆるやかだけど、続けられる。続けるために、ゆるやかに。

何事も、やってみたいと思ったことをやってみる。やりながら、また、やりたいことが膨らんだり、つながったりしていきます。

中学校の様子を小学6年生に伝えているところ

――きっかけは、「だっぴ」(※1)イベント、背中を押したのは「コノユビトマレ合宿」(※2)

小学校は地元の小学校に行っていましたが、中学校からは岡山県立岡山大安寺中等教育学校に進学しました。中学3年の時に、教育関係の色んな人と話して、大きな視野を持ったり、自分を理解できる場になるからと「だっぴ」のイベントを紹介されました。迷わず参加している自分がいました。

最初に参加した岡山大学で開催された「だっぴ 50×50」。年代・職業も多様な人の、みんな違う話に触れて、視界がぐーんと開けた気がしました。これまで、自分の世界には、親、先生、友達、時々親戚くらい。大人たちが何を考えて日々生活しているのかなどの話に触れることは、ほとんどなかったので関わったことのない人と話をすることは、本当に新鮮でした。

その後、「コノユビトマレ合宿」に参加しました。地域や身の回りの課題や気になることをテーマに活動プランを計画し、実行することを通じて学ぶ課題解決型学習「マイプロジェクト」の作り方を学びました。

合宿では、「タイに行って、夢を果たす」や「特産品ジーンズを世界に広げたい」などみんながそれぞれ夢を持っていました。しっかりしていて、どうやって社会に対して自分も関わっていくのかを本気で考えて、行きついたことが「卒業した小学校でのお手伝い」でした。

そして、運営の大人は、教育委員会の方や大学生、どんな仕事をされているのか謎な方など、どの人も仕事以外で関わっていて、それがとても不思議でしたが、でも困ったことがあったら、この方たちに聞いてみたいなと思える大人の存在を知りました。

「コノユビトマレ合宿」(2018年6月 美星町:星の郷ふれあいセンター)

――夢は「小学校教師」自分を高めるフィールドを持ったからこそ、頑張れた

岡山大安寺中等教育学校に入って、勉強できる人が多くいたり、正直、勉強が嫌になった時期もありました。だっぴのことを紹介してくれた教育関係の方に「学校の先生になるんなら勉強ができない子の気持を理解できることは、とても大切なこと。よい体験」と言われました。

高校生のころからはじめた学校園支援ボランティア活動によって、自分の得意なことを知り、自分を高めることができるフィールドを持ったから、くじけずにこれたと思います。ボランティア活動を通して、色んな人と臆せず話すことができたり、外部との調整能力が付いたり、一緒に活動をしている高校生や中学生の成長が嬉しかったり、自分のことをよく理解することができました。周囲からは「もっとちゃんと勉強して、テストで点数を出すように」と何度も言われました。

大学進学は、岡山大学での総合型選抜の入試で挑みました。もちろん、ボランティア活動のことも、たくさん話しました。いろんな活動をしていたので、大人と話す、自分のやりたいことを伝えるということの力が身についていたのだと思います。それがここで発揮できました。

共通テストも必要でしたが、読んだ本をレポートにしてプレゼンテーションをしました。選んだ本は「10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方」(著者:木村泰子)。自分の見えない学力を信じていたからこそ、読んでいて、よくよく理解できました。大学に入って、講義で学んだ「非認知能力」のことと、つながりました。

将来は、小学校の先生になります。今、岡山大学教育学部小学校教育コースでその道へ向けての勉強をしています。自分をふり返っても、小学校で過ごす時間は、かけがえのないものだと感じます。人間形成の基盤というか、これから生きていくことの最初の扉というか…。

そこに関わり、地域や社会とつながって、世界を広げてあげたいです。

(編集後記)

潮上さんの活動は自ら設定したプロジェクトであり、きわめてインディペンデントな「PBL(課題解決型学習)」ともいえる。自分を高めるフィールドを持つことが、自信へ、希望へ、夢へとつながる。

地域や社会とのつながりの中で学ぶ機会を、在校生にも卒業生にも作ることができる小学校。責任の対象である児童とともに、“地域の若者”となった彼女らに学びの続きを与え、信じて、伴走する小学校の先生方の懐の深さも感じた。

小学生にとっては、未来の自分たちでもある中学生・高校生が、前向きに社会と関わっている姿が学校の風景にある。このことの教育的価値は、言わずもがなである。

「社会に開かれた教育課程」実現には、地域社会の、大人の懐も伴走力も必要である。

※1  NPO法人だっぴ:http://dappi-okayama.com/
※2 コノユビトマレ合宿:中高生らが「より良い自分」「より良い社会」を実現するための方策を考える場