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歴史が生んだ郷土料理「どどめせ」

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  • 2022.05.19

1993年7月、母親の病を機に東京でのサラリーマン生活を終え、およそ20余年ぶりに生まれ故郷の備前福岡にUターン、家業の「手打うどん一文字」を継ぐことになった。それなりに充実していた東京暮らしを断念しての帰郷、後悔だけはしたくないと気合を入れていたころ、地元の方々から「ちらし寿司の元祖といわれる郷土料理があるがいつでも食べられる店がないので一文字さんでやられんか」と誘われた。

屋号の「一文字」は、刀剣の一大流派「福岡一文字」からきており、地域に貢献できることがあればと考えていた矢先でもあり、すぐに飛びついた。どどめせを復活させた地元の婦人会会長さんからレシピをいただき、何度も試作しては試食していただき、1994年4月からうどん店のメニューとなり今日まで続いている。

鎌倉時代末期、歴史教科書にも載る中世福岡の市会場近く、福岡の渡しにある飯屋でうまれたどどめせは、その後広まりちらし寿司の元祖となったといわれている。当時の備前福岡は、人口5000人から10000人の中世の商都。「かつての賑わいを再び」と、2006年からは地域で協力し毎月第4日曜日の定期市「備前福岡の市」を復活。今年4月の開催で182回16年目を迎えている。

私たちの地域の遠い先人が、中世の商都としての賑わいをつくっていた。今を生きる私たちも、形は違っても賑わいの追求はできると思う。地域の歴史文化を活かしながら、地域で賑わいが循環していく仕組みづくりは、SDGsの時代である今日、火急の課題になっていると考えている。

(2021年5月25日 FUEKI No.75)