助成先を訪ね歩く(取材日:2024年10月21日)

伝えようとするから再発見できる地元の魅力

Rediscover Tsuyama

  • 知る
  • 2025.01.21

助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。Rediscover Tsuyamaのコアメンバーであり、通訳案内士としても活動するチャールズ裕美(ちゃーるずひろみ)さんに、ご自身が経営するNokishita Toshokan B&B (西粟倉村)でお話を伺いました。(取材・文/桜会ふみ子)

津山市

津山市は、岡山県北部の人口約10万人の町です。和銅6年(713年)に美作国が備前の国から分かれて以来、政治・経済・文化の中心地として繁栄しました。今も市内各所に工芸品や町並みなど古くからの伝統が残っています。市内では米作りや野菜作り、干し肉や煮凝りなど江戸時代から続く牛肉を多彩に食べる習慣も注目されています。現在も岡山県北部の中心的な存在ですが、人口は減少傾向です。

参考:
津山市ってこんなところ|津山観光WEB
Microsoft Word – 津山市計画書その1(160405).docx

Rediscover Tsuyama

Rediscover Tsuyama (以下、RDTと記載)は岡山県津山市を舞台に「地域の魅力を再発見」していく、ひとづくり・まちづくりのプロジェクトです。津山市周辺の有志を中心に2017年に設立されました。

RDTのメンバーは、地域固有の歴史や魅力を大切にし、時を越えて伝えていくには、まず自分たちがその土地の魅力を知る必要があると考えています。しかし、その土地の魅力は住んでいる人にとって、あたりまえのことが多く、自覚するのは簡単ではありません。

そこで、文化や背景が異なる世界中の人に津山の魅力を伝える企画を通し、津山の人たちに津山の魅力を再発見してもらう活動を実施しています。具体的には、中学生・高校生を中心とした地域の方を対象に、海外の方との「交流の場 × 津山の文化や暮らし」を紹介するイベントを企画しています。海外の方がみせるポジティブな反応に接して、津山を魅力的にとらえる視点を持つきっかけにするのが狙いです。

魅力を伝えることは魅力を知ること

―Rediscover Tsuyamaが発足したきっかけを教えてください。

チャールズ(敬称略):2017年の秋に、Iターンで津山に来られた和田デザイン事務所の和田 優輝(わだ ゆうき)さんと、津山の魅力について話したのがきっかけです。

津山は私の故郷ですが、高校2年生の頃、奨学金を得て海外留学するまで、地元の魅力がわかりませんでした。実を言うと、あまり津山が好きではなかったです。

考えが変わったのは、海外生活をしたあと、夫と共に西粟倉村に移ってきてからだと思います。西粟倉村で宿泊施設を経営しながら、通訳ガイドの仕事として、海外の方に津山の職人さんや津山城や重要伝統的建造物群保存地区を案内しました。海外の方は、津山が素敵なところだと感動し喜ばれます。私も「津山って歴史や文化もあり食べ物も豊かで、海外の方から見ると素敵な場所なんだな」と思うようになりました。

通訳ガイドの仕事を開始してから3年くらいたった頃でしょうか。海外の方を案内して津山の魅力を再発見したと、和田デザイン事務所の和田さんに話す機会がありました。「津山には、津山の魅力を知らない人が多い気がする」と意気投合したのですが、RDTのアイデアは、そこから生まれたものです。

―設立当時考えていた、具体的なアイデアを教えてください。

チャールズ:若い世代である中学生・高校生に、津山の魅力を再発見するきっかけとして、海外からの観光客に津山を紹介してもらおうというアイデアです。まず和田さんが運営されている「つやま城下ハイスクール」の中学生・高校生に声をかけました。つやま城下ハイスクールは、学校の枠を超えた津山の高校生が町の中で実践的な学びをするプラットフォームです。

私は、海外の方に向けて通訳ガイドをしていますから、英語でのガイド体験なら、私のノウハウを活用できます。中学生・高校生にとっては目新しさもあり、活動として受け入れられやすいのではないかと考えました。海外の方に津山を知ってもらう活動は、中学生・高校生が津山への好意的な反応に接する機会にもなります。今まで気づいていなかった地元の魅力を知るきっかけとしても、貴重なものです。もちろん、海外の方に津山に親しみを持って津山市と縁を繋いでもらうのも狙いのひとつでした。

RDTは私が代表で、イベントの計画などプロジェクトデザインを和田さんのデザイン事務所が担当しています。

―今までにどのような活動をしてきましたか?

チャールズ:活動を始めた2018年4月に実施したのは、津山の横野地区で手すき和紙を作っている上田繁男(うえだ しげお)さんの工房体験です。中学生・高校生とRDTのメンバーは、紙すきの体験と見学をしながら、海外の方に英語で日本の文化について説明することに挑戦しました。

また2023年に実施したのは、米作りについて農家さんにお話を聞くイベントでした。開催を思いついたのは、私が経営しているNokishita Toshokan B&Bに宿泊いただいたイスラエルの方との会話が元になっています。その方は、周囲が水田という環境に驚かれました。

聞くと、イスラエルは海水から塩分を抜いて水を作っていて、とても貴重なのだそうです。日本は水に囲まれ、水をたくさん使った稲作をしているのがすごいと、興奮して話されました。その様子に、水田に囲まれた暮らしは、とても貴重で素晴らしいと私も感動しました。

それまで、私自身、このときほど周囲で米作りをしていることにありがたさを感じたことはなかったんです。私自身もっと詳しく米作りの歴史を含めて、日本の食文化のベースであるお米について詳しく知る必要があることを痛感し、Rediscover Tsuyamaで若い世代のみんなと一緒に学べないか提案してみました。

この提案は、津山市加茂地区の方に協力していただいた「お米作りについて知ろう!英語で伝えよう!」と題したイベントとして実現しました。具体的には、海外の方との稲刈り後の田んぼ見学とおにぎり作りです。農家の方から米作りついて説明を聞く一方、当日参加してくださったアメリカ人2名とイギリス人1名の方々に、それぞれ育った地域ではどんな農作物が栽培されているかについて中高生が質問する時間も作りました。またおにぎり作りの際も、好きな具の話題などで英語で交流ができ、楽しい時間になりました。

他にも、竹を使った伝統工芸の見学や城東地区、そして城西地区(どちらも重要伝統的建造物群保存地区)での町歩きや豆腐作り体験なども実施しています。

画像提供:Rediscover Tsuyama

―他に心に残ったできごとはありましたか?

チャールズ:県北部で開催されている「森の芸術祭 晴れの国・岡山」(2024年11月24日で終了)に参加しているイタリア出身のアーティスト ジャコモ・ザガネッリさんが2023年に来日された際、岡山県立津山高等学校(以下、津山高校)の美術部のメンバーとワークショップをしたことです。その日、私は参加できなかったのですが「津山の好きなところは?」と生徒に質問をしても誰も何も答えられなかったと、ジャコモさんから聞きました。

津山が誇る歴史的町並みの城東地区にも、その場にいたほとんどの高校生が訪れた経験がなく、歴史的町並みがあることさえ知らない生徒さん達もいたそうです。

それを聞いて驚いたジャコモさんが高校生を城東地区に連れ出してくれたと聞いて、高校生が海外の方に津山の魅力を紹介するのではなく、逆にイタリアの方に教えてもらった成り行きに驚きました。本当に良い学びの機会になったと感謝しています。

―RDTに参加している中学生・高校生の反応はどうですか?

チャールズ:外国人の方とコミュニケーションをとりながら、少しずつ津山という土地の魅力を再発見できていると思います。活動の影響もあるのか、進路をニュージーランドの大学に留学を決めて頑張っている子もいますよ。

―今後の課題だと考えられていることはありますか?

チャールズ:ジャコモさんが1週間かけて津山高校の美術部のみんなと作品作りをし、そのお披露目会がありましたが、試験前だったのか、美術部の生徒達はほとんど出席しませんでした。その場には海外のゲストもいて、高校生にとってはコミュニケーションをとれる機会になるはずだったので、残念に思いました。

目の前の試験も大切だとは思います。けれど、長い目で見たときに人生にとって大きな実りに繋がる経験を選択できる、価値観や優先順位のつけ方みたいなものを構築するのが、今後の課題だと思います。

ガイドブックがきっかけを作ってくれている

画像提供:Rediscover Tsuyama

―なぜ福武教育文化振興財団の助成を申請したのですか?

チャールズ:2009年に西粟倉村に移住して以来、通訳やB&B、英語教室、パン屋などを通して地域の方とつながる中で、福武教育文化振興財団の助成金は聞いたことがありました。応募に至ったのは、RDTの資金面の不安を減らすためです。2018年に助成先として採用されたときは「頑張れ」と言われたようで、励みになりました。

―当財団の助成金は、どのようなことに使いましたか?

チャールズ:中学生・高校生を中心とした津山に住む方達が海外の方を案内するときに役に立つように「ガイド養成BOOK」を作成して、ガイドをする際に配布しました。

ガイド養成BOOKは「英語で案内はしたいけれど、どこからスタートしたら良いかわからない」という人向けに作った、簡単な英語で案内できるガイドブックです。文法などの型にはまらず、生きた英語を紹介することを心がけました。

これを使えば、誰でも不安なく簡単な観光ガイドができます。ガイドを体験して通訳ガイドの仕事をしてみたい、という中学生・高校生も出てきました。助成の存在は大きかったです。

―これからどのような活動をしようと思っていますか?

チャールズ:これからは中学生・高校生だけでなく、もっと幅広い年齢層の人たちが交流できるプログラムが作れたらと思っています。参加する人の年齢層が広がれば、RDTの活動を知り興味を持ってくれる人も増えるからです。津山の魅力を再発見する人も増えるのではないでしょうか。

また津山には、各武道が共同で合気道、空手道、弓道、柔道など、武道の修練による青少年の健全育成を図るために創設された「津山武道学園」という組織があります。最近知ったのですが、同じ地域の武道組織同士が手を繋いでいるのは、津山しかないそうです。こういった津山にしかないものを、Rediscover Tsuyama内だけでなく、より多くの人と協力しながら魅力につなげたいです。

「関係人口」という言葉を、聞いたことがある方もいると思います。その土地に仕事などで定期的に訪れる人、またルーツがある人、その他なんらかの形で関わりがある人たちを指す言葉です。RDTでは、津山の関係人口増加に貢献できたら、と思っています。

津山だけでないですが、地域には人口減少や高齢化によって、担い手不足という課題に直面しています。
津山は、もともと魅力的な町です。関係人口が増えれば、魅力を再発見する機会も増え、地域に変化を生み出す人が増えると思っています。今よりもっと住みたい・誇りに思える町になるでしょう。

右:和田広子財団職員

おわりに

チャールズさんの住まいは西粟倉村です。西粟倉村では「豊かな森」をテーマに地域に暮らす人たちがお互いに影響しあい、積極的に活動しているそうです。

「西粟倉村でこれだけできたのだから、津山でももっと自分たちの魅力を発信していくことができる」とチャールズさんは言いました。

京都や大阪などは海外の観光客が増えた影響で、周辺地域にインバウンド需要が広がりつつあります。津山をはじめ岡山県は、今後関西を経由して訪れる海外からの観光客の増加に期待できます。海外の観光客と地元住民が互いに交流しながら、発展していくことで、津山の魅力を再発見し、地域の担い手作りができるのではと希望をいただいた取材でした。

成果報告書も併せてお読みください。
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2018_117.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2019_061.html

Rediscover Tsuyama
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