助成先を訪ね歩く(取材日:2024年10月7日)

子どもたちが主体的に活動し、それぞれの「郷土愛」を育む場所

やかげ小中高こども連合

  • 知る
  • 2025.01.21

助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。やかげ小中高連合の代表 奥村美恵(おくむら みえ)さんと、前代表の井辻美緒(いつじ みお)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/高石真梨子)

岡山県小田郡矢掛町

岡山県小田郡矢掛町は、岡山県の南西部に位置する内陸の自治体で、旧山陽道の宿場町として栄えた町です。国の重要文化財指定の旧矢掛本陣石井家住宅と旧矢掛脇本陣高草家住宅が現存するほか、当時の面影を残す風情ある街並みも残されています。

2018年7月豪雨では、西日本を中心に全国的に記録的な大雨を観測しました。岡山県矢掛町も一部の地域が浸水被害に遭い、全国の被災自治体の中でも被害が深刻な自治体の一ひとつでもあります。

参考:
矢掛町移住支援サイト
矢掛町公式ホームページ

やかげ小中高こども連合

認定こども園が一園、保育所が三園、小学校が七校、中学校と高等学校がそれぞれ一校ある矢掛町。2014年、矢掛町合併60周年の助成金をもとに、「やかげ小中高こども連合」(以下、YKG60)が設立されました。団体の目的は以下の二点です。
・年代を越えてこどもたちが主体的に活動し、地域社会になじみ、地域を支える社会人となるように育成すること
・中山間地域の地域おこし・地域創生における若者の役割を自覚させ、矢掛町の発展・充実・振興に資すること

活動内容は、町内の環境問題に取り組んだ年から、2018年7月豪雨を経て全国の被災高校生とのつながりや防災に取り組んだ年まで様々です。その年にYKG60で活動する小学生から高校生までの子どもたちが主体となって、自分たちのやりたいことや課題に感じていることに向き合い、活動内容を決めています。

写真提供:やかげ小中高こども連合

設立から10年が過ぎた現在では、行政・地域と協働して「こどもが主役のまちづくり」を進め、地域住民も子どもも地域活動の一員と認識し企画段階から子どもの意見を取り入れるようになっています。

小中高の異年齢が集うからこそ発揮されるバランスの良さ

前代表の井辻美緒さん(左)と現代表の奥村美恵さん(右)

―YKG60が発足したきっかけを教えてください。

井辻(敬称略):発足のきっかけは、矢掛町合併60周年記念事業に応募したことです。

応募の背景には、岡山市から矢掛町に移住して子育てをした私の経験があります。

岡山市から矢掛町に嫁いできた私にとって、矢掛で生まれ育った人たちが「矢掛は何にもない。でもええとこじゃろ」とうれしそうに言うことを新鮮に感じました。一方で、矢掛の地域の人たちと子育てしている人たちとの間には、お互いにどこか遠慮があり、勿体無いなぁと感じていました。

そして、そういう人たちが町内会の運営などに自分事として取り組む姿を間近で目にして「郷土愛のある人たちがいるから、地域は残り続ける」と気づいたんです。そこで、私が矢掛で出会った郷土愛のある人たちのような人を増やしたいと、漠然と思うようになりました。

そのようなタイミングで、矢掛町内で開催された宿泊型の禅の集いに参加した引っ込み思案な息子が、同じグループ内のお兄ちゃんに強いあこがれを抱いて大きく成長して帰ってきたんです。その姿を見て、異年齢の子ども同士が与えあう刺激の可能性を感じました。

そこで、異年齢の子どもたちと地域の大人たちがごちゃ混ぜになって、子どもたち一人ひとりが、自分の出番を感じられる体験を提供できるつながりを作ろうと、矢掛町合併60周年記念事業に応募しました。

YKG60は矢掛町の頭文字と矢掛町60周年をかけて、子どもたちが付けた愛称です。設立から10年経った現在では、子どもたちも町民も「YKG60」と呼んで親しんでくれています。

写真提供:やかげ小中高こども連合

―実際に、小中高の異年齢が集ってみてどのような影響がありましたか?

井辻:異年齢が関わることによって、いろいろな意見が出てくるなと思います。小学生だけで話し合っても混沌としてしまう場面で、高校生がちょっと主導してくれると意見がまとまることもありました。

高校生って本当にしっかりしているんで、大人の求めることに応えようと空気を読むんですよ。でも、小学生って感覚的に「これは面白いけれども、これは面白くない」みたいな自分軸の感覚を持っていて、それが課題の本質的な部分をついていることも多々あるようです。この両者が共に活動するのがYKG60の面白さだと思っています。もちろん、小学生は面白いと思ってもできないことが圧倒的に多いので、中高生がサポートします。

活動を通して、一番成長してほしいと思っているのは、中学生です。中学生って、小学生の延長線上で素直にやりたいこともある一方で、部活動などの上下関係を通して固められてしまうところもあって、戸惑いも多い年齢だと思うんですよね。なので、そういう中学生に小学生の素直な面白さや、小学生に優しく向き合う高校生から両方の良いところを学んでもらいたいと考えています。

―団体名に「やかげ」の地名があるということは、矢掛在住でないと参加できないのでしょうか

井辻:矢掛町にある高校は岡山県立矢掛高校の一校で、YKG60の高校生メンバーのほとんどは矢掛高校の生徒です。矢掛高校は県立高校なので、矢掛町以外から通っている生徒も多くいますよ。

団体名には矢掛の地名が入っていますが、子どもたちに矢掛に住み続けてほしいという意図はありません。このYKG60で「郷土愛」の気持ちを育んでもらって、それぞれが将来住む場所で、地域の問題に対して自分事になってほしいと思って運営をしています。

もちろん活動中は矢掛町のために活動をしていくことになりますが、加入の条件に矢掛町在住の有無は問いません。現在も倉敷市をはじめとする近隣の自治体に居住するメンバーが在籍しています。

―この10年間の活動を通して印象的だったエピソードはありますか。

井辻:2021年に子どもたちが矢掛町の大人を対象に、矢掛町の魅力と問題点は何かとアンケートを取りました。

魅力としては、歴史があること、自然が豊かなこと、人が温かいという三つにまとまったので、これを大事にしていこうとなったようです。

一方、問題点はそれほど上がりませんでした。ただ、日頃から徒歩や自転車での移動が多い子どもたちは、日頃の生活を通して矢掛の町にゴミが多いことに対して問題意識を抱えていたようです。

そこで子どもたちは、町の大人を招待して一緒にゴミ拾いをする「大人にゴミを見せつけるツアー」を開催して、たばこの吸い殻など大人の捨てたゴミをたくさん拾いました。

写真提供:やかげ小中高こども連合

次に話し合われたのは、ゴミ問題を解決する方法です。子どもたちはゴミ問題に対して怒っているので、罰則を作ったり、ゴミを捨てる人が怖がるポスターを張る案や、5m間隔にゴミ箱を置く案が出ました。しかし、どれも根本的にゴミが減る案ではないんです。

話し合いが行き詰まり、大人が「話し合いを切り上げて来月の活動に持ち越そう」と提案しようとしたそのとき、ある女の子がポロッと「ゴミにさぁ、あまりにも感謝がたりなくない?」と呟きました。

その女の子は、その場にあったお茶のペットボトルを手にしながら「このペットボトルがないと私たちはお茶が飲めないのに、そのお茶を運んでくれたペットボトルがポイっと捨てられたらゴミになってしまう。そして、ゴミになるとこうやってみんなから悪者扱いされるのっておかしいんじゃない?」と続けたんです。その一言で、話し合いの場の空気がぱっと切り替わりました。

女の子の意見から着想を得たほかの子が、古着を活用する方法やゴミからのメッセージを喋らせるなど、ごみをただ減らすのではなく活用したり、面白おかしくゴミ問題を提起したりする方向へ意見が大きく変化しました。

大人はつい解決案を急いでしまいますが、子どもたちには子どもたちのペースがあるので、それをちゃんと待ってあげる必要があること、「放牧」をYKG60の子どもたちから学んでいます。

この件は、福武教育文化振興財団さんのご縁で知り合った団体に協力してもらって、ゴミのリユースの可能性について学ぶことに繋がりました。そして、最終的には高校生が空き家を借りて、その空き家を使って空き缶をキャラクターに変身させて「ゴミを正しく捨てるといいものに生まれ変わるんだよ」というゴミの叫びを聞いてもらうというイベントが実現したんですよ。

写真提供:やかげ小中高こども連合

活動のヒントになる団体とのつながりを求めて、助成応募を決意

―福武教育文化振興財団の助成制度に応募した理由を教えてください。

井辻:当団体を運営する大人に学校関係者がいるので、福武教育文化振興財団の助成金制度は自然と候補の一つになっていました。この10年の間にほかの助成制度も活用させていただいてきましたが、福武教育文化振興財団は助成を受けている団体を繋いでくれる仕組みが多くあるので応募しました。

―助成を受けて、よかったことは何ですか?

井辻:助成を受けた団体がどのように活動しているのかという情報にすぐアクセスできたり、活動報告会で実際にほかの団体と顔を合わせたりする機会を作ってくれたことです。おかげで、活動の幅が広がっています。先ほどお話ししたゴミのリユースも、大人が福武教育文化振興財団さんを通じてゴミのリユースをする団体を知っていたから、子どもたちに情報を提供できました。

同じ地域で、子どもたちのために活動する団体の活動を知ることができるので、自分たちの活動の気づきがたくさんあります。YKG60は子どもたちが主体的に活動する場ですが、子どもたちがどこかと繋がりたいと思ったときに、その選択肢を大人側が用意していないと活動の幅は広がりません。なので、福武教育文化振興財団を通して、子どもたちの活動のヒントになるような団体と実際にと繋がれたことは、場を提供し子どもたちを見守る立場である大人にとっても大きな財産になりました。

写真提供:やかげ小中高こども連合

―今後の目標を教えてください。

奥村:YKG60を必要とする子どもがいる限り、活動するための資金と場を用意し続けることが大人の役割だと思っています。

10年間の活動を通して、私は異年齢の子どもたち同士の与える影響力をたくさん見せてもらってきました。大人たちはつい「何をさせてあげたら良いだろう」「何を用意したらよいだろう」と先廻りして何かを与えようとしてしまいがちですが、子どもたちは「何もしなくてよい場所、つまり居場所がほしい」と言うんですよ。

今年(2024年)は、子どもたちが矢掛町に自分たちの居場所を作ってほしいと要望を出しに行きました。今はなくなってしまったのですが、2018年7月豪雨の頃、YKG60には「みんちきハウス」という子どもたちの居場所がありました。当時の話を聞いた子どもたちが自分たちの活動拠点としてみんちきハウスのような場所が欲しいと思うようになったんですよね。それで、動き出して、矢掛町に要望を出しに行きました。

現時点では居場所を作れるかわかりませんが、子どもたちの思いを町に届けたことはいい経験になったと思います。その年のメンバーによって活動内容が大きく変化するYKG60の子どもたちをこれからも応援し続けていきたいです。

おわりに

手前:和田広子財団職員

「大人の役割は見守りをすること。そして、その時々に必要最低限の資源をシェアするだけ」と語る井辻さんも奥村さんも、実際に自分のお子さんがYKG60のメンバーとして成長した姿を見てきた保護者でもあります。

私は昨年度まで特別支援学校で教員をしていました。特に異年齢での活動は、教育課程上限られた時間しか確保できないため、円滑に進むようにとその年の子どもたちに活動させたいテーマを大人がある程度決めてしまいがちです。

現行の学校教育では、子どもたちに経験させたいねらいを明確にすることが求められているので、そのねらいを達成できるようなカリキュラムを設定する必要があります。しかし、さらに自由度の高い活動を求める子どもには物足りないかもしれません。

そのため、YKG60のように課外の時間に子どもたちが自主的に集って活動できる場は、貴重だと思います。毎年その場にいる子どもたちによって課題が変化し続けることが必要だと認識している大人は多くても、最後まで見守り続けられる場を提供できる大人はどれだけいるでしょう。これからも矢掛の子どもたちがYKG60を必要だと思い続ける限り続けてほしい活動です。

成果報告書も併せてお読みください。
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2017_023.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2018_026.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2019_026.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2020_129.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2021_115.html 

一般社団法人やかげ小中高こども連合
問い合わせ先
TEL:090-95-6-3363
ykg60.ykg60@gmail.com