助成先を訪ね歩く(取材日:2024年8月5日)

高校生の自主性を起点として蒜山のファンを増やす

蒜山ミライ会議

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  • 2024.11.08

助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。蒜山ミライ会議の一員であり、岡山県立勝山高等学校蒜山校地の教諭でもある永田浩史(ながたひろし)さんにお話を伺いました。(取材・文/桜会ふみ子)

真庭市蒜山

真庭市蒜山は岡山県北部に位置し、蒜山三座の裾野には広大な高原地帯が広がる地域です。中心となる蒜山高原は「大山隠岐国立公園」の一部にも指定される西日本を代表するリゾート地としてジャージー牛の放牧風景やアウトドアアクティビティ、地域特産のグルメを楽しみに年間を通して観光客が訪れています。

観光と並ぶ産業として農業や畜産があり、大根やジャージー牛乳などブランド化していますが、人口は減少傾向が続き、人手不足が課題となっています。

参考:
蒜山高原の観光・楽しみ方いろいろ!【真庭観光局公式】 (maniwa.or.jp)

蒜山ミライ会議

画像提供:蒜山ミライ会議

「蒜山ミライ会議」は、蒜山の地域住民や教育コーディネーター、蒜山振興局等が集まって地域の活性化や高校と地域の協働を推進する方法を考えている組織です。勝山高校蒜山校地のインターンシップが職業体験中心とする方法から、地元の課題を探り地域にアイデアを提案する方法に変更されたのをきっかけに、結成されました。

蒜山ミライ会議では蒜山地域の未来を考え、持続可能な地域づくりを推進するために意見交換が行われます。議題は地域資源の保護と観光の振興、地元の産業活性化が中心です。

蒜山ミライ会議は、勝山高校蒜山校地の生徒たちが行っているCP(Community building Project)の授業をサポートしています。勝山高校蒜山校地で入学後すぐに行われるのが、高校生活を通じて取り組んでいく課題を見つけるフィールドワークです。蒜山ミライ会議メンバーは、受け入れ先の提供や報告会でのアイデアをブラッシュアップする壁打ち相手となります。その後も、取り組み課題の具体化やアイデアを現実にする際にも並走します。

高校生の自主性を育むことも目的のため、実施内容は高校生自らが決定するルールです。蒜山ミライ会議はアドバイスだけでなく、高校生と同じ「蒜山の未来をつくる存在」として、地域の持続可能な発展と地域の価値向上を目指します。

高校生たちの自主性を地域で支えよう

―蒜山ミライ会議が発足したきっかけを教えてください。

永田(敬称略):勝山高校蒜山校地では、CPという学校独自のカリキュラムを実施しています。もともとの授業名は「蒜山」で、学校側が用意したコンビニなどでの職業体験を実施していました。地域からみると「働き手として役に立つので、ありがたい」という話はあったのですが、生徒たちの様子をみていると、カリキュラムをこなすだけになってしまっているように思えたんです。目的である「キャリアや職業に対する考え方が成長するきっかけ」になっているのだろうかと疑問を感じていました。

そこで2019年から、生徒たちに主体的に動いてもらえるようにカリキュラムを変えたんです。もともとは、その成果発表会の名前が「蒜山ミライ会議」でした。成果発表会の中で「高校生たちの活動を支える組織」があった方がいいのではないかという話になり、教職員、地域の方々などを交えた地域連携組織がつくられました。これも「蒜山ミライ会議」と称しています。福武教育文化振興財団さんの助成をいただいているのは、後者の組織です。

地域連携組織である蒜山ミライ会議が発足した2020年以来、年1回蒜山ミライ会議と銘打った発表会兼意見交換会を開催しています。これは、午前に発表会、午後には助成をいただいている蒜山ミライ会議のメンバーや地域の方々などを交えた共創的なワークショップで構成された2部制のイベントです。2024年度はワークショップのテーマを「蒜山のファンを増やす」とし、生徒や教師、地域の人が車座になって話し合いました。

―蒜山ミライ会議を立ち上げようと地元の方から声が上がったのですか?

永田:高校生に地域の問題を自分事として考えてほしい気持ちは、地域にもとからあったようです。

高校生たちは、卒業後はいったん蒜山以外の地域に出て生活をすることが多いんです。それもあって高校生たちは地域の問題を「自分たちには関係のないことだ」と、思ってしまう傾向がありました。

CPは自発的にやりたいことを見つけて、それを地域の人の意見を聞きながら進めていくカリキュラムです。高校生の活動に地域の人たちが積極的に関わっていけば、もっと蒜山に愛着を持ってもらえるのではないか、広く言えば蒜山だけでなく日本の地域問題を考えるきっかけにもなるのではないかという話だったように思います。

―地域の方が学校に入られるのは教師からみてどうですか?

永田:やはり生徒に与えるインパクトが強いです。引き出しが多くて、高校生にとって新鮮な意見を出してくれます。

私たちの学校のキャッチフレーズは「失敗する学校」なんです。高校生が思い切って活動して、蒜山でいろいろな挑戦をして、失敗をしてもそれが経験になる。そのような環境をつくれる大人たちの集団になってきているのではないかと思います。

―蒜山ミライ会議のカリキュラムを通して、高校生はどのようなことに挑戦してきたのでしょうか?

永田:郷土料理として蒜山大根や切り干し大根を使った新レシピの開発、地元のパティシエの指導・助言を受けたアイシングクッキー体験教室の地元小学校での開催など、食を通じて蒜山のファンを増やす内容への挑戦が多いです。また蒜山の四季を紹介する動画、キャンプ場のまとめサイトづくりや、蒜山の香りを楽しむ「蒜香」プロジェクトや川遊び・夏のウインタースポーツを提案して、小学生たちと遊ぶプロジェクトなども実施しています。

画像提供:蒜山ミライ会議

2024年度の3年生は「蒜山のファンを増やす」ことを目的に祭りを計画し、準備が着々と進んでいます。生徒が主体となってステージイベントや川遊び体験を企画し、生徒考案の飲食メニューを出店する予定です。協賛金も生徒が主体になって集めました。蒜山ミライ会議のメンバーも一緒になって、楽しく盛り上げる予定です。

※2024年8月に、2024年度の3年生が中心になって企画した「HIRUKO SUN³ FES」は、大成功のうちに終了しました。

画像提供:蒜山ミライ会議

―活動の中で印象的なできごとはありましたか?

永田:ウクライナから日本に避難してこられた方に、リモートでピロシキについて意見交換したのが印象深かったですね。ウクライナ人の女性2人と交流しました。オリジナルのピロシキを開発し、「蒜山ミライ会議」で参加者に振る舞い好評でした。

おいしいものを食べるにも「平和であることが大切だ」という発見は、高校生たちだけでなく、その会に参加した全員にあったと思います。

魅力ある蒜山をつくる担い手として

岡山県立勝山高等学校蒜山校地

―なぜ福武教育文化振興財団の助成を受けようと思いましたか。

永田:福武教育文化振興財団さんの助成制度は募集要項を見たことがあって、他の学校でも活用している話も知っていました。前のCPの担当者が助成金に応募していたのがきっかけで、2021年から助成を受けさせていただいています。

―当財団の助成を受けて、良かったことは何ですか。

永田:いただいた助成金は、主に生徒が移動するためのバス代として使っています。蒜山地域にはコミュニティバスはあるんですが、公共交通機関がほとんどありません。何かをするためにも、誰かに会いに行くためにも、移動方法を考えなければならない。助成があったから、会いに行けた場面が何度もあり、ありがたかったです。

どこかに行きたい高校生の気持ちを叶えられるし、ストップをかけずに済むんです。実際に行動にできるからこそ、高校生は地域の問題を自分事として考えられるようになってきているように思います。助成の存在は大きいです。

―これからどのような活動をしようと思っていますか?

永田:2025年4月開所予定で、学生寮の機能と学び合いや交流機能を持った「学習交流センター(仮称)」を、学校の向かいに建設しています。この交流センターを拠点にして、蒜山ミライ会議を開き地域の方々と話し合いながら、蒜山のファンを増やす取り組みができるといいですね。

学習交流センター(仮称)建設予定地

生徒の入れ替わりに伴い、活動内容は毎年変化します。高校生たちの活動だけに依存するのでなく、地域の人すべてが蒜山の未来をつくる。そんな気持ちで取り組んでいただいたらありがたいです。

おわりに

左:和田広子財団職員

勝山高校蒜山校地は生徒数68名(2024年度)の小規模な高校です。県外から入学する生徒もおり、寮生活を送る生徒も多くいます。永田さんも自宅から離れて蒜山で暮らしていると伺いました。生徒と教師の距離が近い高校生活や蒜山ミライ会議の並走は、きっと高校生の心の成長に少なからず影響していくでしょう。

失敗は成功よりも多くの学びを生み出すと言われます。勝山高校蒜山校地には「失敗する学校」というユニークなスローガンがあります。この言葉を掲げられるのは「失敗しても大丈夫」と生徒が思える環境を、蒜山ミライ会議がつくり出せるという自信の表れなのかもしれません。

「今も、いったん蒜山から出ていく生徒たちが多い。蒜山だけでなく地域づくりの担い手として成長してくれればいい」と永田さんは語ります。蒜山だけでなく、勝山高校蒜山校地のこの取り組みが日本の地方を活気づける未来が楽しみになるお話でした。

成果報告書も併せてお読みください。

https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2021_076.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2022_084.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2023_088.html

蒜山ミライ会議
岡山県真庭市蒜山上長田4 岡山県立勝山高など学校蒜山校地内
問い合わせ先
0867-66-2016
https://hiruzen.okayama-c.ed.jp/