遠く離れた場所でも、ジャムタンを通して私たちはつながっている
jam tun代表 田賀朋子
アフリカンプリントの布を使ったファッションブランド・jam tun(ジャムタン)。jam tunを直訳すると「平和しかない」ですが、「おはよう」や「こんにちは」、「家族や仕事の調子はどう?」などの返答として使われている現地プラール語の挨拶だそう。ジャムタンを通して、遠い世界を近づける田賀さんの活動に対する姿勢について、お話を伺いました。(取材・文/森分志学)。
子どもの頃から国際協力に関心があったと話す田賀さん。マンチェスター大学大学院で国際開発について学んだ後、青年海外協力隊に応募します。コミュニティ開発をミッションにセネガルに派遣され、住民の生活改善のために活動。村の仕立て屋に縫製を協力してもらい、廃棄される布とビニール素材で防水仕様のトートバッグをつくると、これが村の人に大好評でした。一方で、国際協力機関の支援が本当に必要な人たちに届いていない現実も目の当たりにしました。
協力隊任期を満了した後も、そのモヤモヤは残っていたそう。一方で、赴任したシンチューマレム村への愛着もまた、帰国後消えていませんでした。
個人と個人のつながりを目指したいと考えた田賀さんは、現地の仕立て屋・クイエと連絡をとり、アフリカンプリントの縫製品の生産・販売を始め、ジャムタンを創業します。
ジャムタンは、村の仕立て屋が縫製した服やバッグなどを、適正価格で日本で販売するビジネスモデルです。現地の生産態勢は見習いの青年たちを含む20人ほどで、販売は主に岡山県内での出店形式。国際協力という看板ではなく、単純にかわいいものとして販売することを大切にする田賀さん。ネット販売もしていますが、お客さんと直接つながることのできる対面販売を重視しています。購入者には田賀さんが見てきた現地のことも伝えながら、「よかったら後日、服を着ている写真を送ってください」と勧め、お客さんの様子を現地の作り手たちにも伝えています。
写真は作り手のモチベーションになっていて、お客さんの顔も覚えているそう。支援するという一方通行ではなく、作り手とお客さんの相互のつながりを大切にされています。それは、国際協力としての支援のつながりではなく、私たちの日々の関係性のなかにシンチューマレム村の人たちも、ただ目の前にいるひとりの人として関係しているというつながり。私たちが普段、目の前の人に真摯に対応し、一生懸命に行為しているように、シンチューマレム村に向き合う田賀さんを媒介に、商品を購入したお客さんも村の人と向き合っている状態を田賀さんはイメージしています。こうした関係性の醸成から、現地に行きたいというお客さんが出てきました。実際に村に招待して5泊6日の滞在。作り手さんは喜び、日本に行きたくなったなど、新たな活力が芽生えました。渡航したお客さんもまた、日本と全く異なる文化のなかでかけがえのない経験をできたことに感謝されていました。ジャムタンを媒介に、お互いにいつか行ってみたいと思えるような関係性をつくり続ける先に、田賀さんの目指す「優しい世界」があるようです。
ジャムタンの活動は、田賀さんがシンチューマレム村を好きで、そこに住む人たちのことを好きで、この地域に還元したいという思いから始まっています。それは縫製業の雇用を生むだけにとどまらず、2022年には現地のサッカーチームの支援も始めました。ゆくゆくは職業訓練や識字教育の機会、図書館、今回のような旅行者の受け入れ態勢なども整えていきたいと話します。田賀さんのコミュニティ開発は協力隊時代からずっと地続きなのです。
〈出典〉ふえき 84号(2024年5月25日)