旧旭竜幼稚園での“多世代が交流できる居場所づくり”を目指して
NPO法人まんなか
助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。岡山市を拠点に活動するNPO法人まんなか理事長、岡田直子(おかだ なおこ)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/大島 爽)
岡山市旭竜(きょくりゅう)学区と旧旭竜幼稚園
岡山市旭竜学区は岡山市の北東部(中区)に位置するエリアです。かつてはのどかな田園地帯でしたが、1970年代に高島団地が誕生し周辺地域の開発が進んでいきました。そして高島駅(旧国鉄、後にJR西日本)が完成してからは急速に発展し、市街地へと移り変わります。古くは旭川の本流の中にあったとされ、現在でも街中に清流のある自然に恵まれた環境です。
そんな旭竜学区に住む子どもたちが通っていた『旭竜幼稚園(現在の呼称は旧旭竜幼稚園)』は、住民に園庭開放の時間が設けられるなど、地域に根ざした存在でした。未就学児だけでなく、小学生の子どもたちも一緒に遊んだり、近所の人たちと触れあったりできました。長く親しまれていましたが、2020年3月に閉園。当時、住民からは地域の交流の場を失ったことを惜しむ声が多くあったようです。
NPO法人まんなか
NPO法人まんなか(以下『まんなか』)は「親子の居場所、多世代交流ができる居場所を、自分たちの手でつくろう」をテーマに、さまざまなイベントを開催する団体です。
理事長の岡田直子さんは、旧旭竜幼稚園の園庭開放に当時4歳と2歳の子どもを連れてよく訪れていたため、閉園を強く惜しんだ一人でした。安全性の高い施設で、子育てに好環境だった幼稚園を、閉園後も住民に利用させてもらえないかと岡山市に掛け合いましたが、叶いませんでした。
岡田さんは2019年に友人たちと子育てサークルを立ち上げ、任意で活動をしていましたが、旧旭竜幼稚園の利用価値を訴えるためにも活動を本格化させる必要性を感じ、2021年3月に法人化へ踏み切りました。
誰かの役に立っているという実感が原動力になる
―「NPO法人まんなか」として法人化してから、これまでの経緯を教えてください。
岡田(敬称略):法人化したことで、私たちの活動が認められ始めたのか、まずは岡山市の事業である「子育て広場※」として、旧旭竜幼稚園の利用ができるようになりました。当時、岡山市で運営されていた子育て広場は12カ所あり、市の子育て支援課から13カ所目として許可をいただき、私たちは実施メンバーとして関わることになります。ただし、『まんなか』への委託ではなく、あくまで市の事業をサポートする立場としてです。
※子育て広場:0歳から未就園の子どもとその保護者など子育てに関わる人が自由に参加できる場。
参考:おかやま子育て応援サイト
また「子育て広場」の対象は乳幼児親子と限られており、地域の小学生や大人の出入りはできません。ようやく旧旭竜幼稚園を利用できるようになったものの、多世代が集う場として機能していた、かつての役割を果たすことはできない状況でした。
『まんなか』の目指すところは「親子の居場所、多世代交流ができる居場所」です。「子育て広場」の活動と並行しながら、『まんなか』としてのイベント開催を目指すべく、地域の催しに積極的に参加して住民との交流を図ったり、自分たちの活動を地域に広める努力をしたりしていました。そんな中、旭竜学区の町内会長さんの協力もあって、法人化から約1年後の2022年4月から、『まんなか』としても旧旭竜幼稚園で活動することが岡山市から認められました。
―旧旭竜幼稚園で「NPO法人まんなか」として活動する上で、目指していることはなんですか。
岡田:旧旭竜幼稚園を利用する際には、イベントの内容を市に申請して許可証をもらい、施設の利用料をお支払いした上で使用しています。現在は決められた日程での開催ですが、将来的には、毎日のように空いていて「あそこに行けば誰かに会えるよ」というスペースになるのが理想です。訪れた人同士が知り合いになって、声を掛け合いながら子育てをシェアできるような空間づくりや、乳幼児、子ども、地域の大人たち、多世代が集い交流できる場所として機能することを目指しています。
―活動を続けてきて、良かったことはなんですか?
岡田:活動を始めてまもなくコロナ禍になり、遊べるような施設はどこも開かなくなったので、細心の注意を払いながら親子が集まれるイベントを細々と開催していました。あるお母さんから「子どもが一歳になるぐらいまでずっと家にこもっていたんです。もっと早く来れば良かった」と泣きながら言われたことがあり、やっていて良かったと思いました。ご時世的に仕方のないことだったのですが、家族から人がいるところには行くのは控えようと言われていた人が多く、辛い思いをされた方がたくさんいたようです。『まんなか』の存在が少しでも心の拠り所になれたんだと実感できたことは、活動を続ける原動力になっています。
――活動を続けてきた中で、新たな展開はありましたか。
岡田:新たな展開は3つあります。1つ目は、『まんなか』として、2024年度瀬戸内市協働提案事業に採択されたことです。瀬戸内市から補助金をいただき、6月から『まんなか』主催の「BABYこどもひろば」という定期イベントをスタートさせました。瀬戸内市は、他市在住者でもやりたい人に門戸を開いてくれ、『まんなか』の活動や実績を、子育てをサポートする市民活動のロールモデルとしても捉えていただいているようです。『まんなか』の拠点は岡山市であることには変わりありません。瀬戸内市との協働事業を通して培ったノウハウを、また岡山市に還元できたらいいなと思っています。
2つ目は、これまで、『まんなか』が主催するイベントの一つでもあった「多胎の会」が独立し、多胎サークル『おてて』が立ち上げられたことです。多胎児ならではの悩み相談や、こんな制度があるよなど一般的には知られていない有益な情報を共有し、発信できる場として、双子を育てる『まんなか』のメンバーが中心となって活動を始めました。
ほかにも、メンバーがやりたいことにトライした実績として、ピアノ演奏と絵本の読み聞かせを融合させた『ピアノ絵本の会』も開催しました。『まんなか』には、自分の思いを大切にしながら活動したい人が集まり、ピアノが得意な人、絵本について勉強している人、本業もある助産師さんなど、自分の得意なことを生かしています。『まんなか』は、子どもや地域に貢献できるプラットフォームとしての役割もあると感じています。
3つ目は、岡山市の区づくり推進事業※への参加です。世代の縛りがなく、各区の区民が主体的に地域のまちづくりを推進することが目的の事業です。『まんなか』として参加はできないので、町内会協力のもと、任意団体「きょくりゅう地域みんなの居場所づくり実行委員会」を立ち上げ、私たちの目的でもある多世代交流の居場所づくりにアプローチしています。高齢者も含むさまざまな世代が自然に交流できるようにしたいと考え、カフェのような雰囲気でお茶を楽しめる企画も開催しました。
※区づくり推進事業:地域の特色を活かした事業を各区の区民が主体的に企画・運営・実施することを通じて、地域のまちづくりを推進することを目的としています。
参考:岡山市区づくり推進事業
助成金は“お金”だけではなく“人とのつながり”も生み出す
――当財団の助成金を申請したきっかけを教えてください。
ESD・市民協働推進センター※から、福武教育文化振興財団の「教育文化活動助成金」が、私たちの活動に合っているのではないかと紹介されました。もともとお金のことを何も考えずにサークル活動を始めて、資金もなく、イベントで使う折り紙などの工作グッズもメンバーの持ち出しでやっていました。でもそろそろ限界が見えていたし、活動の幅を広げるきっかけにもなるかと思い応募しました。
※ESD・市民協働推進センター:市民協働推進事業、地域協働支援事業、ESDプロジェクト普及・促進事業を実施し、多様な主体の協働で、地域にある社会課題解決を進め、持続可能な協働のまちづくりを促進しています。
参考:ESD・市民協働推進センター
―当財団からの助成はどんなことに活用されたのでしょうか。また助成を受けて、良かったことはありますか。
参加者からお金を得ることが難しい「子育て広場」の開催資金として活用できました。ワークショップで使う材料費や、講座を開催してくれる講師への謝礼などに充てました。NPO法人になって助成を受けられたのは、2021年〜2023年までの3年間です。
助成を受けて良かったことは「子育て広場」の活動がしやすくなったこともありますが、福武教育文化振興財団さんを通して、さまざまな方とつながれたことです。助成対象者向けの勉強会に出席して、そこで出会った人と情報交換ができ視野が広がりました。
また、福武教育文化振興財団さんからの支援があるのは大きな後ろ盾になります。取材記事が出て活動の信頼度が上がったり、町内会でもチラシをオフィシャルな配布物として取り扱っていただいたり、私たちのことを広く知ってもらえる機会に恵まれるようになりました。お金だけではないメリットを大きく感じています。
―今後の目標を教えてください。
岡田:団体の自走です。補助金や助成金だけでなく、実績を積み、活動の意義を広めて価値を感じて賛同してもらい、寄付金を集められるようになりたいと考えています。また、自分たちの活動のノウハウを活用したイベントやワークショップなどを通じて収益事業を作っていきたいです。
収益事業への布石として、企業向けのサービスづくりを始めました。例えば、企業で父親の育休を推進するための研修や、カーディーラーやハウジングパークなどでお客様を対象に子育てに関する講座の開催を考えています。ただし、企業は年度毎に予算やスケジュールを組んでいるので、年度の途中に飛び込んでも契約には至れません。企業の予算編成のタイミングを見据えて、早めにアプローチを開始するなど、中長期的に考える必要も出てきました。
また、旧旭竜幼稚園のように、使っていない施設を住民が利用するモデルケースにもなれたらと思います。これから、閉園する幼稚園も増えてくると思うので、アドバイザーとしてサポートすることもできるのではないかと考えています。施設の老朽化等の問題がなく取り壊しを急がないなら、特に幼稚園は、遊び場がなくて困っている子どもたちにとって素晴らしい場所です。その有用性をアピールしていきたいと思います。
これまで活動を続けてきて、「子育て広場」では実施メンバーとして、「区づくり推進事業」では協力メンバーとして、そして『まんなか』としては主催者として、さまざまな角度から活動を展開できるようになりました。
引き続き、あらゆる世代の心の拠り所となるように、子育て広場や、『まんなか』主催の活動は継続しながら、団体の運営を続けるための課題にも取り組んでいくことが、今後の目標です。
おわりに
旧旭竜幼稚園の閉園を機に、“ママ友サークル”から一念発起し、NPO法人化を敢行。粘り強く地道な努力の末に大きな一歩を実現した岡田さん。
お話を聞く中で興味深かったのが、「これまでの活動では“母親という当事者”としての感覚が強く、例えるなら“右脳”優位だったが、法人として自走運営を見据えるようになってからは、客観的な視点が求められるようになり、“左脳”も働かせなければならなくなり、それが心地良くも感じる」とのこと。
自走という決して簡単ではない目標はあるけれど、どこかワクワクとした様子の岡田さんに、確かなリーダーシップを感じさせ、彼女の未来への決意と地域への深い愛情が伝わってきました。
成果報告書も合わせてお読みください。
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2020_013.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2021_038.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2023_008.html
NPO法人まんなか
岡山市中区中島37-1 A102
問合せ先:
TEL 090-9063-8410
Mannaka.marumaru@gmail.com
https://mannaka.amebaownd.com/