助成先を訪ね歩く(取材日:2024年8月28日)

自分たちの被災経験を子どもたちに楽しく伝えていきたい

MSB30

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  • 2024.10.23

助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。MSB30の安田伊織(やすだ いおり)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/高石真梨子)

平成30年7月豪雨

平成30年7月豪雨では、西日本を中心に全国的に記録的な大雨を観測しました。岡山県倉敷市真備地区では、地区全体が浸水被害を受け、全国の被災自治体の中でも被害が深刻な自治体の一つです。

全壊世帯が4,646棟にのぼり、大規模半壊・半壊・一部損壊の各世帯の合計は 1,215棟と全壊被害の割合が高かった真備地区。特に、真備地区の約3割にあたる 1,200haが浸水(高さ最大5m)したことにより、多数の家屋が被害を受けました。地区内の小中学校でも浸水被害があったため、一時は 5,500人以上が地区内外の避難所に避難。長引く避難所生活では、倉敷市教育委員会が小中学生を対象とした居場所や学習支援の場も提供しました。

参考:
平成30年7月豪雨災害の概要と被害の特徴
事例5:倉敷市真備地区(岡山県) 平成 30 年7月豪雨(西日本豪雨)
西日本豪雨 子どもケアに支援の手 居場所づくり、悩み聞き取り

MSB30

写真提供:MSB30

MSB30は、平成30年7月豪雨発災時の避難所となっていた公民館の一つで学習支援を受けていた中学生たちによって、設立されました。団体名の「30」には結成年のほかにも「豪雨のタイミングを忘れないように」という意味も込められています。真備の子どもたちのために、災害を風化させないための取り組みをしたいと考え、ボランティアグループとして活動を始めました。

文化祭や防災イベント「まびっこカエルキャラバン*」の開催、他団体のイベントへの参加など防災啓発やまちづくりなど、さまざまな視点から真備の子どもたちが明るく元気になれるイベントを企画するなどの活動を行いました。

その後、メンバーの進学により2023年度をもって解散。「まびっこカエルキャラバン」の活動は真備地区の別団体に引き継ぐ予定とのことです。

*カエルキャラバンとは
NPO法人プラス・アーツが、平成17年に阪神・淡路大震災を教訓にして開発したイザ!カエルキャラバン(以下、カエルキャラバンと記載)を指します。カエルキャラバンは、子どもたちや家族を対象に、災害時に必要な「技」や「知恵」を、ゲーム感覚で楽しみながら学習する防災訓練システムです。

カエルキャラバンは、以下の流れで構成されています。

1 遊ばなくなったおもちゃを、会場でカエルポイントと交換
2 カエルポイントで好きなおもちゃをゲット
3 防災体験に参加してカエルポイントをゲット
4 イベントの最後には、特別なおもちゃが手に入るオークションを開催。ためたポイントでレアなおもちゃを落札できる

参考:カエルキャラバン

避難所で大学生に学習支援をしてもらったように、自分たちも地元の子どもたちのために

―MSB30が発足したきっかけを教えてください。

安田(敬称略):きっかけは、平成30年7月豪雨です。私は真備町の出身で、この時に被災しました。親戚の家に避難できたので避難所生活は短かったのですが、当時中学生だったので避難所に開設された「まなびのひろば」に通って夏休みの宿題をしました。

「まなびのひろば」で大学生に勉強を教えてもらったりカードゲームをしたりする時間がとても楽しかったんです。大学生は私たちと年齢が近いから、お兄さんお姉さんのように親しみが持てたんだと思います。

「まなびのひろば」の経験を通して、私自身も真備の子どもたちのためにできることをしたいと思うようになりました。ちょうどそのタイミングで「まなびのひろば」のスタッフから地域の秋祭りの企画をしないかと誘ってもらって、実行委員を募ったんです。

秋祭りで実際にイベントをやってみて、引き続き地元の子どもたちのために活動したいという気持ちが強くなりました。そこで、秋祭りをした実行委員のメンバーで立ち上げたボランティアグループが「MSB30」です。

―団体紹介では「防災イベントを開催」とありますが、最初から防災をテーマに活動されていたんですか?

安田:いいえ。でも、私たちが「まなびのひろば」で大学生と関わって楽しかった経験から、自分たちも地域の子どもたちのために「何か」をしたいと漠然と思っていました。

そこで最初は、他団体のイベントに参加することから始めようと思い、その場をお借りして被災をした子どもや学校などの復興に充てるための募金活動をしたんです。寄付先は倉敷市教育委員会を選びました。

その後もさまざまな団体の活動に参加しましたが、災害から時間がたち「真備の災害を風化させないための取り組みがしたい」という気持ちが芽生えてきたんです。「まなびのひろば」スタッフにそのことを相談したところ、教えてもらったのがカエルキャラバンです。

岡山県苫田郡鏡野町で開催されたカエルキャラバンにボランティアスタッフとして参加したところ、とても楽しくて。メンバーと「自分たちの地元(真備)でやりたい」と思うようになりました。

―活動で苦労したことはありましたか?

安田:ボランティアスタッフに、カエルキャラバンでやってほしい仕事内容をどう伝えるかという点が難しかったです。

写真提供:MSB30

「まびっこカエルキャラバン」は、地元の小学生を対象としたイベントなので、子どもたちと関わるボランティアスタッフは高校生にお願いしていました。ただ、高校生って人前で話すことに恥ずかしさとかを感じる世代なんですよね。だから、恥ずかしがらずに子どもたちに分かりやすい説明をしてもらうためには、こちらがどう説明したらよいのかとても悩みました。

でも、ボランティアスタッフに応募してくる高校生って、私たちと同じように小さい子どもたちのお世話をするのが好きなんですよ。だから、実際にイベントが始まってみると子どもたちとボランティアスタッフが和気あいあいと盛りあがっていて、安心しました。

周りの大人に助言を受けつつ、現役中学生での助成採択

―福武教育文化振興財団の助成制度に応募したきっかけを教えてください。

安田:カエルキャラバンを続けていこうと思った時に、ワークショップをやるための道具を借りたり購入したりするための資金や、講師への謝礼金を支払うための資金が必要になりました。これらの資金は、自分たちが主催する募金だけではまかなえません。

そこで「まなびのひろば」のスタッフに相談したところ、福武教育文化振興財団の助成制度の存在を教えてもらい申請することになりました。

―申請当時は中学生だったのですよね。実際に助成を受けてみて、活動にどのような影響がありましたか?

安田:はい。当時は中学2年生でした。
特に難しいことは考えずに、周りの大人に支えてもらいながら一緒に申請書を書いた記憶があります。もちろん修正しないといけない部分も多くあったので、何度も書き直して提出しました。

助成を受けて良かったことは、カエルキャラバンを継続イベントとして実施できるようになったことです。

写真提供:MSB30

2019年の第1回開催時は助成を受けずに、周りの大人たちに助けてもらいながらイベントを開催しましたが、2021年に開催した第2回からは助成金を活用させていただき、イベントを開催しました。

また、助成金をいただいて資金面に余裕ができたのでイベント前に防災に関するカードゲームを数種類購入して、メンバーが実際に使い比べてみました。自分たちがプレーしてみてワークショップに向くゲームかそうでないかを判断できたことにより、ワークショップの質が上がったと思います。

それから、助成を受ける前は屋外でイベントを実施していたのですが、助成を受けてからは施設を借りる余裕ができ屋内で開催できるようになりました。おかげで、当日の天気に左右されることなくイベントを遂行できました。

このように、助成を受けたことで活動の選択肢の幅が広がったと思います。

助成を受けたのは2020年度~2022年度の3年間ですが、2023年度は助成を受けて活動した際に購入した物品や運営ノウハウを生かして、再度自分たちの手だけでカエルキャラバンを開催しました。無事にイベントを終えた時の達成感は、忘れられません。

―2023年度に開催された「まびっこカエルキャラバンvol.4」以降の活動はありますか?

安田:2024年度にメンバーが大学進学し、定期的な活動が難しくなるため2023年度をもってMSB30は解散しました。メンバーおのおのが、MSB30の活動を通して自分のやりたいことを見つけて進路を決めました。

団体としては解散しましたが、今でも電話会議などで定期的にメンバーで集い「これから自分たちがどんな活動をしていきたいか」議論を重ねるのが楽しみの一つです。

おわりに

手前:和田広子財団職員

福武教育文化振興財団の助成の申請は、中学生であっても大人と変わらない手続きを踏んでいくものです。学校生活だけでは経験できない苦労もたくさんあったとは思いますが、どの活動も純粋に「楽しかったんです」と語る笑顔に偽りはないのが伝わってきました。

MSB30のメンバーはそれぞれの進路に向かって歩み始めましたが、真備の子どもたちを想う気持ちは変わらないとのこと。「まびっこカエルキャラバン」の経験を真備の財産として引き継いでいく団体も、メンバーで応援していく予定だと聞いています。真備町にとってもMSB30が築いた活動は大きな財産になるでしょうし、中学・高校生の多感な時期にMSB30という団体として試行錯誤をした彼らのこれからの活躍に期待が高まります。

成果報告書も併せてお読みください。
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2020_039.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2021_125.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2022_085.html

MSB30
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