築200年以上の古民家での体験を価値とし、後世につなげる
NPO法人つくぼ片山家プロジェクト
助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。NPO法人つくぼ片山家プロジェクト代表の滝口美保(たきぐち みほ)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/小溝朱里)
片山家
片山家は、阿波三好家(あわみよしけ)の家臣でした。1703年には新田を買い求めて帯高地区に移住し、1803年頃に片山家の南分家として住宅が建設されています。当時は農業を営みながら土地を増やし、豪農として知られていました。
片山家住宅がある敷地内には、居住スペースだけではなく約500㎡の庭があります。片山家の先祖は庭が好きで、こだわって作っていたそう(滝口さん談)。「来客にも庭を楽しんでほしい」と、本来であればあるはずの、住宅を支える角の柱を客間側だけなくす造りになっています。屋根裏には「はねぎ」という仕掛けを施し、柱がなくても軒が下がらない構造です。
1978年、隠居屋だった場所を能舞台へと建て替えました。滝口さんの祖母が能の師範だったことから、日常的にお稽古ができるように作られたと言います。現在は能舞台や庭、客間などを活用したイベントを中心に、地域住民が集まる場になっています。
NPO法人つくぼ片山家プロジェクト
NPO法人つくぼ片山家プロジェクト(以下、つくぼ片山家プロジェクト)は、片山家住宅の保存・活用と文化芸術の継承に関する事業などを行い、人と人、人と地域がつながるまちづくりや地域包括ケアの推進に寄与するため、2017年に法人化し活動をスタートしました。
江戸時代、片山家の先祖が都窪郡(つくぼぐん)早島町を治めていた戸川家に仕えていたことから、ご縁がある「つくぼ」をいただき、プロジェクト名にしています。
片山家住宅の敷地内にある能舞台や庭などを活用しながら、様々なイベントを実施しているのが特徴です。能舞台では、子ども向けの能楽教室やプロの能楽師を招いた能楽講座などを行っています。クラシック音楽や尺八のコンサートなども実施し、様々な文化芸術に触れる機会を作っています。
また、地域の方が気軽に足を運べるよう定期開催しているのが、「おしゃべり座談会」「おしゃべり喫茶」です。(主催は「チーム岡山まぜごはん」。片山家は共催。)過去には、「わたしものがたり(写真で自分を語る)」、「お抹茶体験」、「防災についての講演会」などを実施しました。片山家を開放して行うイベントを「オープンハウス」と総称して、年齢・性別・国籍などを問わず、地域住民を中心に交流の場をつくることで、地域包括ケアの推進に務めています。
2022年には令和4年岡山県備中県民局提案型協働事業の一環として「備中伝統芸能フェスティバル」を開催、2023年からは倉敷雛めぐりの会場となるなど、他事業に参画する機会も増えてきました。地域の方や有識者とともに片山家住宅の活用を考え、歴史や古民家の価値を伝える活動を続けています。
縁が縁をつなぎ、歴史を紡ぐ仲間を増やす
―つくぼ片山家プロジェクトを立ち上げた経緯を教えてください。
滝口(敬称略):片山家住宅は2004年頃からしばらく空き家で、姉弟が交代で手入れしていました。ですが建物も庭も広く、身内だけでは維持が大変でして…。
数年経って父と母が亡くなったとき、更地にして売却する話もあったのですが、父が本当に好きな家で生前「地域の方のお役に立つ場所にしてほしい」と言っていました。壊すのはもったいないと思っていたんです。2014年に内覧会を開き、不動産会社さんや地域の方など、興味のある方に来てもらいました。
最終的には地域の方が「ここをどうするか考えよう」と言ってくださり、団体を立ち上げることにしたんです。「つくぼ片山家プロジェクト」の名前は、内覧会からお世話になっていたNPO法人倉敷町家トラストの中村さんに付けていただきました。
―今までの活動で印象的だったことはありますか?
滝口:児島に住む方から雛人形を譲っていただいたことです。読み聞かせのイベントでお世話になった方のお知り合いで、「お雛様の管理ができないから寄付します」と言って持ってきてくださったんです。すごい量だったのでびっくりしましたが、客間と奥座敷に飾らせていただきました。
これがきっかけで、倉敷雛めぐりの会場として手をあげたところ、主催者の倉敷市に認めていただきました。2023年は雛人形を飾るのがメインでしたが、2024年は同じ児島の方から衣装もお借りして、「おしゃべり喫茶」の企画内で着付け体験を企画しました。海外の方も来られ、みなさんとても喜んでくださったので嬉しかったです。
さらに、雛めぐりに倉敷市多津美公民館の方が来てくださったのがきっかけで、公民館講座を片山家で開くことになりました。2024年11月を予定していますが、地域の郷土史家の方をゲストに呼んでくださるとのことで、私も楽しみにしています。私は片山家の歴史をお話しようと思っています。
―人とのつながりから、活動が広がっていますね。
滝口:活動を応援したり、片山家住宅を活用してくださったりする方がいて、本当にありがたいなと思います。
現在のつくぼ片山家プロジェクトは、主催イベントだけでなく、チーム岡山まぜごはんさんの事業に共催するなど、場所をお貸しすることも増えてきました。「借りていい場所なんだ」という認識を、地域の方を中心にさらに広げていけたらと思います。
―一方で、活動を続けるなかで大変だったことはありますか?
滝口:新型コロナウイルス感染症が流行していたときは大変でしたね。つくぼ片山家プロジェクトは地域の診療所にご協力いただいて、地域包括ケアも目的の一部になっています。活動範囲を厳格にルール化していたこともあり、なかなかイベントができなかったんです。
緊急事態宣言の合間をぬって、できることをやる日々で…。先が見えなかったのは大変でした。
感染症の流行が収束したときも、別の大変さがありました。とくに2023年11月頃は、どこの地域でもイベントがどっと再開しましたよね。うちも月に4回イベントを行うことになり、告知などの準備が追い付いていませんでした。ただ収束を機に、今までと同じように場所を使ってくださる方がいるのはありがたかったです。
―2017年に法人化してから、7年が経ちました(取材当時)。思うように活動できない時期もあったなか、続けてきてよかったと思う瞬間はありますか?
滝口:能楽教室を毎年行っているのですが、参加してくださる子どもたちの姿を見ていると続けてきてよかったと思います。
初めて触れる伝統芸能に、みんな興味津々でして。目をキラキラさせて体験している姿を見ると、続けてきたことの意味を実感します。
古民家だからこそ、伝統芸能や昔ながらの暮らしを体験できるのが、片山家住宅の価値だと思っています。普段の生活ではなかなか体験できないこともあるかもしれませんので、築200年以上の古民家が残っている価値を、これからも伝えていきたいです。
立ち上げ直後の助成で基盤づくり
―福武教育文化振興財団の助成を受けようと思ったきっかけを教えてください。
滝口:申請したのは2018年で、NPO法人化した直後でした。助成金に詳しい方に紹介していただき、福武教育文化振興財団さんの助成を知りました。
当時は活動を始めたばかりで、活動資金が少なかったうえに、活動内容は模索中でした。どういうふうに活動していけばいいか勉強したかったですし、教えてほしかったんです。活動の可能性を広げたいと思い、助成を申請しました。
―当財団の助成を受けて、よかったことは何ですか。
滝口:勉強会や成果報告会などで、他団体がどんな活動をされているか勉強できたことです。福武教育文化振興財団さんの集まりがあると、自分事として考えやすくて活動の参考になりました。
また、経済的にも助かりました。活動の記録を残している「つくぼ歳時記」を本格的に制作できたのはありがたかったです。第1号は私が作っていたのですが、助成を受けさせていただいてからはプロに依頼できました。
成果報告会などで他団体と交流できるときには、「つくぼ歳時記」やチラシを持って活動を紹介するんです。おかげで自信を持って、活動について紹介できるようになりました。
現在の活動費は、会員のみなさんの年会費やご寄付、イベントの参加費などでまかなえるようになりました。今も、助成を受けていた当時と同じ方につくぼ歳時記の制作を依頼しています。
今も変わらず活動ができているのは、活動開始してすぐに福武教育文化振興財団さんから助成していただき、活動の基盤を整えられたからです。スタートダッシュを後押ししていただき、感謝しています。
―今後の目標を教えてください。
滝口:地元の方に、もっと気軽に来ていただけるようにしたいです。以前、「能には興味があるけど機会がなくて…」とおっしゃる方に出会いました。興味があっても来られていない方がいるのだなと思いました。
片山家住宅に来るのは、「能を知ろう。勉強しよう」だけが目的でなくていいと思うんです。純粋に、建物や庭の雰囲気を楽しんでいただきたい。昔の家ならではの楽しみ方が、ここにはあります。それを記録と記憶で残していきたい。私の思いです。
さらに多くの方に関わっていただけるよう、イベントなどを通して片山家の歴史や片山家住宅のことを伝えていきたいと思います。
おわりに
一つひとつの出会いやご縁を大切にして、次につなげて形にしている。これが、片山家の歴史を築いてきたのだなと感じる取材でした。家系図やご先祖様の写真をたくさん見せていただいたのですが、どれも細かく記録が残っていたのです。その丁寧さは圧巻でした。
現在のつくぼ片山家プロジェクトもまた、歴史や建物を残していくうえで大切にしていたのが、出会いやご縁でした。その時々で相手とコミュニケーションを取り、片山家住宅の可能性を探してきたからこその活動の広がりだと感じます。今後もどのようにご縁がつながっていくのか楽しみです。
成果報告書も併せてお読みください。
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2018_069.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2019_123.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2020_138.html
NPO法人つくぼ片山家プロジェクト
倉敷市帯高727
問い合わせ先
TEL:080-3107-5759
メールアドレス:project.katayama@gmail.com
https://projectkatayama.wixsite.com/p-katayama