子どもたちへ農業の魅力を広げたい
アグリ魅力化志援会
助成を受けた団体や活動が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。勝央町を中心に活動する「アグリ魅力化志援会」代表の本行才泰(ほんぎょう まさひろ)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/桜会ふみ子)
勝央町
勝央町は、岡山県の北東部に位置する人口約1万人の町です。
主な産業は、黒豆やブドウ、モモなどの果物栽培をはじめとする農業と、勝央中核工業団地を中心にした工業です。子育て世代の転入が多いため、比較的若い住民が多い町となっています。
町内には、明治34年に農業高校として開校した『勝田郡立農林学校』を前身とする岡山県立勝間田高校があり、森林コース・園芸コース・食品コースなど、実学を中心とした教育が行われています。
アグリ魅力化志援会は、勝央町で町の産業である農業のカッコよさや素敵さを子どもたち世代に伝えようという気持ちを持った人達の集まりです。プロモーションビデオ作成や農業体験を通して勝央町の産業の柱である農業を守ろうとしています。
参考:
全国町村会町村長随想岡山県勝央町長 水嶋 淳治
勝間田高等学校
アグリ魅力化志援会
アグリ魅力化志援会は、勝央町を活性化しようと結成された「しょうおう志援協会」の活動から生まれました。就農する若者を少しでも増やすことを目的に、勝間田高校と連携しながら農業のイメージアップを目指しています。「志援(しえん)」という名称は、志のある人を支えるという気持ちから付けられた名称です。
活動は、農業のカッコよさや素敵さを高校生が取材し、伝えるプロモーションビデオの制作からはじまりました。その後、勝間田放課後児童クラブの横に「ドリームファーム」と名付けた農園の運営を開始。高校生や地域の方との交流の場としても使われています。また教育委員会とも連携して、小学校への出前授業などにも積極的です。
農園で作られた作物は町内外へ販路を広げ、多くの人を巻き込みながら自立した組織に向けて活動しています。
農業への負のイメージをどうにかしなければ
―活動のきっかけを詳しく教えてください。
本行(敬称略):最初は「しょうおう志援協会」で企画した勝央町の地域ブランドである「勝ブランド」を盛り上げようというブランディングプロジェクトを行っていました。プロジェクトで実施した「志プレゼンテーション大会」のなかで、勝間田高校の生徒さんから、農業危機の話題として農業のイメージの低下と後継者不足の話を聞きました。それがきっかけで、私も「農業の将来」を改めて考えるようになったんです。
考えてみると「跡を継ぎたい」と思っている若者に、僕は会ったことがなかった。これは、先々のことを考えると深刻な問題だと気付きました。
そして、「しょうおう志援協会」の仲間や勝間田高校の先生(現校長)と相談して、若者の農業に対するイメージアップを図るために「アグリ魅力化志援会」が生まれました。
―最初はプロモーションビデオを作成されたそうですが、なぜその活動を選んだのでしょうか。
本行:マイナスのイメージを持ってしまっている高校生の気持ちを動かすには、何が必要かと考えた時、自ら農業を経験してもらうことが必要だと思いました。
今の高校生はYouTubeなどで様々な種類の映像を見ているし、動画も日常的に撮影している世代です。映像がとても身近だからこそ、自分の体験を動画にするのも楽しいだろうし、農業にも興味を持つのではないかと考えました。
また、本物の農業をやっている方に接した時に、本物を見て「カッコいい」と思ってもらいたかったんです。自分たちの思っている農業と目の前の農業とのギャップには、強いインパクトがあるはずです。先入観を壊されて、農業の見え方が変化する体験を提供したかったんですよね。
現実の農業には、高校生たちが思っている「お年寄りが多い、先が見えない」というイメージも確かにあります。でも、新しい農法を積極的に取り入れて稼いでいる人もいる。ピカピカの高級車に乗ってあらわれて、個性的なファッションに身を包んだ、僕たちが見てもスゴイなと憧れるような人も多いんです。そのことを知ってほしいと思いました。
なので、1年目の活動は6人の酪農家も含めた農家さんの取材をもとに、生徒たちで撮影したプロモーションビデオをYouTubeで公開しました。
―取材をした高校生たちの様子はどうでしたか?
本行:取材や撮影には、農業クラブだけでなく、幅広い専攻の生徒が参加してくれました。実際に見たり話を聞いたりすると、多様な人が農業という仕事を前向きに選択して、趣味も楽しみながら生き生きとした笑顔を見せている。思っていた人とイメージが違ってびっくりしたようです。
取材を重ねるうちに「カッコよく撮りたい」と高校生の気持ちがシフトしていることがわかりました。取材した方々が農業を楽しんでいる姿を自分の将来に重ねた生徒もいたようです。稼いでいけるなら「農業をしてもいい」という生徒も出てきました。
-活動のなかで苦労されたことはありますか?
本行:2年目はプロモーションビデオを知ってもらうために、プロジェクトを5つ計画しました。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大時期と重なり、ほとんどが頓挫してしまったんです。その年にできたのは、譲り受けた耕作放棄地で作物が生育する様子を、子どもたちに見てもらった活動のみ。交流や体験なども計画していたのですが、実施できませんでした。
―活動を続けてきて、変化したことはありますか?
本行:活動が続くうち、私たちの知名度が上がりました。また、勝央町の広報紙や農業新聞、山陽新聞にも取り上げていただきました。
知名度が上がるとともに応援してくれる人も増えています。教育委員会の協力・JA(農業協同組合)からは農業資材の提供いただいて、感謝しかありません。地域のお肉屋さんにも繋がり、総菜の材料や店頭売りとして私たちの作物を購入いただいています。地元で作った野菜を材料にしてつくったメンチカツや串カツは好評のようです。
新型コロナウイルス感染症の規制が少しずつ緩和され、生産者を中心とした授業や体験会もはじまりました。
出前授業の前後に、小学校では農業に対する意識についてアンケートを取ってくださっていました。その結果をみると、もともと農業に就きたい児童がいなかったクラスに、授業後は9人も農業希望者が増えていたんです。活動に手ごたえを感じましたね。
農業への負のイメージをどうにかしなければ
―なぜ福武教育文化振興財団の助成を受けようと思いましたか。
本行:農業の魅力を知ってもらおうという活動を始めた頃に、教育や文化の活動を支援してくれる助成金があることを初めて知りました。その頃は、まだアイデアだけで資金力もありませんでしたから、助成を受けられたらありがたいと考えて応募を決めました。
-当財団の助成を受けて、良かったことは何ですか。
本行:新型コロナウイルス感染症の拡大は、活動を始めたばかりの我々にとって、大打撃になりました。そのなかで福武教育文化振興財団の助成金をいただいた。助成金で、畑に必要な資材を購入し作物を育てられたのは、ありがたかったですね。直接会える人が少ない状況のなか、助成金は私たちへの応援にも思えました。
今も畑は勝間田高校の生徒さんが管理してくれています。現在、活動を始めた初期のメンバーは全て卒業しました。今はその初期メンバーから直接話を聞いたことのあるメンバーだけでなく、1年生もいます。活動はうまく継続の段階に入ったようです。僕としては、農業のイメージが少しずつ上がっているのも影響しているのかなと思っています。
玉ねぎを販売する業者さんや地域のお肉屋さんのほか、公民館で野菜の販売も開始しました。小さい子どもを連れていると、買い物するのも大変です。子育て広場の利用者からは、私たちが生産した野菜があると、わざわざスーパーに行かなくても日常のお出かけ先で野菜が手に入るので、便利だとうかがっています。収入もある程度安定してきました。
勝間田高校の入学者も、少しずつ増えてきています。高校自体のイメージアップにも繋がっているように思います。
―今後の目標を教えてください。
本行:勝央町は小学校が2つ、中学校が1つとコンパクトで活動が展開しやすい町です。私は小学校のPTA活動にも関わっていますが、会いたい人にも会いやすく、意見も届きやすい。出前授業のなかでも「勝央町の顔の近さ」は、なにか活動するにはとても有利だと、小学生たちに伝えています。アイデアを思いついたら、その人と人との繋がりを利用して実現してみるように勧めています。そのサポートもしたいですね。
私たちのグループも、これからも少しずつ活動を広げて仲間を増やしたいです。そして、今まではできなかった事業も少しずつ展開できればいいと思っています。勝央町や、その周辺の地域から、もっと生き生きと楽しく過ごしている人を増やしたいです。
おわりに
勝央町を中心とする勝英地域に対する思いを伺ったところ、地域に対してというよりも、もっと生き生きと楽しく過ごしている人を増やしたいと笑顔で語った本行さん。3年間の活動で、どんどんその活動の渦に仲間を巻き込みながら、今も活動の幅を広げています。
農業がもっと人の目に魅力的に映り、農業だけでなく他の産業や人々の暮らしまでもが活性化していく未来が楽しみになるお話でした。
成果報告書も併せてお読みください。
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2020_033.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2021_029.html
https://www.fukutake.or.jp/archive/houkoku/2022_123.html
アグリ魅力化志援会
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