助成先を訪ね歩く(取材日:2023年12月20日)

花と文化をテーマに、誇りが持てる地域づくりを

大茅地区活性化協議会

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  • 2024.03.18

助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。今回は、大茅地区活性化協議会の井上義徳(いのうえ よしのり)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/小溝朱里)

英田郡西粟倉村大茅

英田郡西粟倉村大茅は、岡山県の最東北端に位置し、岡山県と鳥取県・兵庫県の県境にある地区で、西粟倉村の3分の1を占める面積を有し、そのほとんどが山林となっています。1965年頃までは大茅地区に住む多くの人が山仕事に従事しており、木の伐採や搬出などを行う山仕事のプロが集まっていました。

現在の大茅地区は、豊かな自然環境を感じられる場として県外からの観光客が多く訪れています。例えば大茅キャンプ場では、夏にヒメボタルの鑑賞や天体観測を楽しめるなど、季節に合わせた体験ができるのが魅力です。

大茅地区活性化協議会

写真提供:大茅地区活性化協議会

大茅地区活性化協議会は2015年に発足し、「花と文化のふるさとつくり」というテーマで大茅地区の活性化を図る有志団体です。

「花」の取り組みでは、大茅地区のイメージアップや交流人口の増加を図るため、棚田のあぜ道を中心に広がるおおがや芝桜公園にて、芝桜の植付や維持管理を行っています。2017年以降は、芝桜まつりと題して一般公開が開始され、2023年には6,000人が訪れるなど賑わいを見せています。

「文化」の取り組みでは、大茅地区内で江戸時代から「大茅区有文書(おおがやくゆうもんじょ)」(※)が代々受け継がれていたことから、展示会を行ったりデジタル化を試みたりしてきました。また、北部の鉄山でたたら製鉄が行われていたことから、現在も残る跡地の調査や、当時を知る住民に話を聞いて記録に残す活動をしています。大茅地区にしかない文化を知り、学ぶことで、地区内に住む住民や出身者が地域に誇りを持てるような取り組みを続けています。

※区有文書:地域で共有している文書のこと。地域によって内容は違うが、大茅地区の区有文書には、年貢、たたら関係、隣村との争い等多くの古文書が継承されています。(井上さんへの取材より)

交流人口が増え、大茅地区に誇りと自信が持てるように

―大茅地区活性化協議会が発足したきっかけを教えてください。

井上(敬称略):僕たちよりも上の世代の方々が大茅地区のインフラ整備を行ってくれ、道路や公民館が使いやすくなっていく様子を目の当たりにしていました。先輩たちがよりよくしてくれたものを、僕たちはちゃんと利用して活用していきたい。また大茅地区の交流人口を増やすことで、大茅地区出身の人たちが帰りたいと思えるような、誇れるまちづくりをしていきたい。そんな思いで発足しました。

というのも、2013年〜2014年は僕が大茅地区の自治会長をやっていたのですが、任期が2年なんです。大茅地区のために何かやりたいと思う人たちが、持続可能な方法でこの地区の活性化に関われるような団体を作りたいと思いました。

自治会長の任期が終わる2014年に、岡山県の「おかやま元気!集落」(※)事業を知り、すぐに申し込みました。2015年4月に採択されたので、同時に大茅地区活性化協議会がスタートしたのです。

※おかやま元気!集落:岡山県では、小規模高齢化集落など、単独では集落機能の維持が困難な集落が含まれる地域において、小学校区、大字等の広域的な地域運営により、集落機能の維持・強化に取り組む地域を市町村からの推薦により「おかやま元気!集落」として登録し、中山間地域活性化の原動力と位置付け、市町村と連携を図りながらその取組を総合的に支援しています。(岡山県「おかやま元気!集落の取組概要」より引用)

―なぜ「花と文化」をテーマにしたのでしょう。

井上:花は、偶然テレビのニュースで山口県周南市での芝桜まつりが取り上げられていたのを見て、「大茅でもやってみたい」と思ったのがきっかけです。実際にマイクロバスで地区の人達と視察にも行き、大茅の豊かな自然環境なら周南市に負けないくらいの芝桜が育てられると思いました。それに、田んぼは草刈りなどが必要なので、芝桜の植付をしながら整備できたらいいなとも思っていました。

視察の様子(写真提供:大茅地区活性化協議会)

文化については、大茅地区の区有文書がたくさん残っていたんです。西粟倉には12の地区がありますが、こんなに区有文書が残っている地区はないですよ。これは大茅地区の誇りだし、残していきたいと思ったのが始まりでした。

先祖代々受け継がれてきた区有文書を、ただ残すのではなくて当時のことを知る人に話を聞いたり、そのうえで冊子を作るなど記録を残したりしたいと思ったんです。そこで、花と文化をテーマにまちづくりをしていこうと考えました。

写真提供:大茅地区活性化協議会

―発足から今まで、活動内容はどのように変化してきましたか?

井上:花については、2017年に芝桜まつりを開催したときは来場者数が1,000人でしたが、2018年には3,000人、2023年には6,000人と、本当に多くの方に来ていただきました。新型コロナウイルス感染症の流行で閉園したときもありましたが、2023年秋には岡山県観光連盟に相談し、京阪神エリアを中心に県外へアプローチを始めました。多くの観光客が立ち寄ってくれて、嬉しい限りでした。

あとは、大茅地区活性化協議会に関わる女性たちがおおがや芝桜公園でカフェを開き、料理を振舞うことも始めました。現在は芝桜まつり開催時だけではなくて、西粟倉村に移住してきた方を囲んで食事会をしたり、芝桜の植付体験に来てくれる岡山県立一宮高等学校の生徒に地元の料理を食べてもらったりと、活躍の幅を広げています。

みんなでわいわいとおもてなししている姿は楽しそうですし、やりがいもあるのだろうなと思っています。世代交代も順調に行われているようで、心強いです。

写真提供:大茅地区活性化協議会

―2015年発足時から、活動を続けてきてよかったことを教えてください。

井上:交流人口が増えたことで、僕たちが自信を持って大茅地区で暮らせるようになりました。学生や観光客、移住者などと話をしていると、「自分たちの歴史や知識の積み重ねは誰にも負けないな」と感じるんです。

芝桜の初回植付時の様子(岡山県立一宮高等学校の生徒たちとともに)写真提供:大茅地区活性化協議会

例えば、大茅地区の歴史を知りたいのであれば本を読めばいいけど、当時の人たちのがんばりまで理解するのは難しいですよね。それを僕たちは活動のなかで知り、記録に残し、語れるようになったことで、大茅地区に誇りを持てるようになったんです。

また、話を聞かせていただいた先輩方は、話した内容を冊子に残してもらえたことが嬉しそうでした。こうして大茅地区の歴史を繋ぎながら、新たな魅力も作り、交流人口を増やしていけたらと思います。

他団体の活動を知る機会が多い

大古地図を修復し展示・披露した様子(写真提供:大茅地区活性化協議会)

―なぜ福武教育文化振興財団の助成を受けようと思いましたか?

井上:「花と文化」をテーマにするなかで、「文化」での活動中、おおがや芝桜公園近くの山林尾根で杉やヒノキの間伐のため作業道が開設されました。すると尾根付近の特異な地形がたたら製鉄と関係していることが判明したのです。

この調査をするために、大茅地区に住む先輩に聞き取り調査をしたり、たたら製鉄に詳しい専門家に話を聞いたりしたいと思い、2020年度に初めて助成を受けました。2022年度には、調査結果や聞いた内容をもとに記録用の冊子を作らせていただき、2度お世話になったと思います。

ちなみに「花」の活動費は、芝桜まつりの来場者に1人150円の入場料をいただいたり、2018年度から中国建設弘済会さんから助成を受けたりしながらまかなっています。なので「文化」の面で福武教育文化振興財団さんにお世話になろうと、助成金を申請させていただきました。

助成を受けて作成した冊子「山村の暮らしと山仕事」

―当財団の助成を受けて、よかったことは何ですか?

井上:他団体の活動状況が分かるのがありがたいなと思います。成果報告会や機関紙「ふえき」の冊子など、他団体について知る機会が多いように感じますね。福武さんが各地の団体を応援してくださっているんだなと分かるので、心強く思っています。

また助成を受けていなかったら地区の長老たちから話を聞く機会や、それを残そうとする活動はなかったかもしれません。僕たちはもちろん、学生たちが学ぶ機会をつくれたのは貴重な機会だったなと思います。

例えば、西粟倉村内の林業会社より「インターン生に『山村の暮らしと山仕事』を紹介し、学んでもらう機会にしたい」と声をかけてもらい、5冊提供しました。また2022年には西粟倉村内に林業の研究に来ていたフィンランドの学生がいて、知人を通じて「参考にしたい」と申し入れがあったためデータを共有しました。大茅地区の歴史を繋いでいく取り組みができ、ありがたかったです。

―今後の目標を教えてください。

大茅地区のマップを作成し、外から来た人が大茅で暮らす人に会いに行けるような機会を作りたいと思っています。今は移住者が増え、木工作家やスクールドッグを広めている人など、個性的な人たちが大茅にはいます。そんな方々に気軽に会いに行けるようなマップを作るなど、今後も交流人口を増やせるような活動をしていきたいです。併せて地域の景観を守る活動が出来たらと思います。

左:和田広子財団職員

おわりに

取材中、井上さんの言葉の端々から大茅地区への愛を感じました。花においても文化においても、自ら視察に行ったり、調査したり、先人たちから話を聞いて記録に残したりと、精力的に活動する井上さんの姿に、周囲の仲間や協力者たちは突き動かされているのだろうなと想像します。そもそも、活動初期から芝桜の植付などで学生や岡山県関係者など様々な人を巻き込んで活動してきたのが印象的でした。井上さんの思いが周りを動かし、大茅地区の魅力をさらに魅力あるまちと思いました。

大茅地区活性化協議会
岡山県英田郡西粟倉村大茅845
問合せ先
TEL:090-7371-9809
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