助成先を訪ね歩く(取材日:2023年10月25日)

「巨瀬ならでは×授業の一環」でコミュニティ・スクールを持続可能に

巨瀬小学校地域参画プロジェクトチーム 福田知子

  • 知る
  • 2023.12.21

助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。今回は、巨瀬小学校地域参画プロジェクトチームを運営する同小学校の校長 福田知子(ふくだ ともこ)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/小溝朱里)

コミュニティ・スクール

コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)は、学校と地域住民等が力を合わせて学校の運営に取り組むことが可能となる「地域とともにある学校」への転換を図るための有効な仕組みです。コミュニティ・スクールでは、学校運営に地域の声を積極的に生かし、地域と一体となって特色ある学校づくりを進めています。

学校運営協議会の設置と努力義務化やその役割の充実などを内容とする、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の改正が行われ、2017年4月1日より施行されました。(学校と地域でつくる学びの未来「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」より引用)

その後は各学校にコミュニティ・スクールが設置され、学校と地域が一体となって地域づくりや学校づくりに取り組んでいます。

巨瀬小学校地域参画プロジェクトチーム

クリーン作戦(写真提供:巨瀬小学校地域参画プロジェクトチーム)

巨瀬小学校地域参画プロジェクトチームは、高梁市で第一号となるコミュニティ・スクール(以下、CS)を運営するチームとして、2017年にスタートしました。所属しているのは、巨瀬小学校の校長・教頭ほか、巨瀬地域の学識経験者、まちづくりや地域コミュニティ団体の代表者などです。

1年に4回協議会を開き、巨瀬小学校の方針やCSのあり方などを熟議したうえで、活動内容を決めています。「学校は地域の一部である」という視点で、地域がよりよくなるための学校運営を目指して活動中です。

巨瀬小学校のCSは、児童が自主的に地域と関われるような取り組みをしています。また、例えば、地域住民や保護者を学校に招き、七夕まつりやスポーツフェスティバル、タブレット教室などを開催する「つどいの場」、地域住民とともに清掃活動をする「クリーン作戦」の二つは、児童発案で行っている取り組みです。これらの活動には、計画段階から地域の方のご意見をいただくなど、地域の方にもただ「参加」するのではなく「参画」していただくようにしており、みんながジブンゴトとなるような活動を展開しています。

現在は各活動を教育課程に紐付けて、授業の一環として実施しています。

児童と地域住民が互いを思い合う関係性に

巨瀬小学校校長 福田知子さん

―巨瀬小学校地域参画プロジェクトチームは、なぜ始まったのですか?

福田(敬称略):法律が改正され、CSが始まる2017年に高梁市から「まずは巨瀬小学校でやってみませんか」と声をかけていただいたそうです。

当時私は別の小学校にいて、2022年度に赴任しました。前任の校長先生からは「もともと巨瀬地区はまちづくりに熱い方が多いから、高梁市のCSの第一号として選んでいただいたんじゃないか」と聞いています。実際、初年度から地域の方に多くの協力をいただいていたそうです。

―活動開始当時から大切にしている思いはあるのでしょうか。

福田:当時も今も変わらない思いとして、地域の方は子どもたちに対して「巨瀬のまちに主体的に関わってほしい」とは思っているけど、「巨瀬にずっといてほしい」とは思っていないんです。

巨瀬という地域で学んだこと・経験したことを糧に一度広い世界に出てほしい。その過程で「やっぱり巨瀬はいいまちだったな」と思って戻ってきてくれればいい。過疎化や高齢化が進むまちにとって子どもたちは宝だから、「巨瀬でできる経験はしっかりとさせてあげて、送り出してあげよう」と思ってくださっています。

だから巨瀬に住むみなさんは、自分が子どもたちのためにできることを惜しみなくやってあげたいと思いながら、学校の活動に賛同し、参加してくださっている。本当にありがたいことです。

おかげで子どもたちにも「巨瀬のために何かしたい」という思いが育ってきているなと思います。

CSの年間計画

―反対に、CSを続ける中で変化したことはありますか?

福田:まずは運営体制として、授業の一環でCSの活動を行うようになりました。先日、地域の方への「感謝祭」を開催したのですが、これも授業と連動させて準備を進めていました。

低学年は「生活科」の町探検で見つけた巨瀬のまちのいいところや出会った方とのふれあいをカルタにしました。町探検のこともお話しながら、参加者のみなさんとカルタを通して交流を深めていました。

また感謝祭のエピソードではないのですが、「生活科」で自分たちで育てたさつまいもを収穫し、おいもパーティーを開こうと考えていた時に、地域のお菓子作り名人さんにお話を聴く機会がありました。子どもたちから、ぜひその方からいもようかんの作り方を教えていただきたいとお願いし、実現することとなりました。「生活科」の学習が、地域の方と関わることによって、より児童の主体的な学びへと変わっていく経験ができたのではないかと思います。

中学年は「理科」の授業で勉強した空気鉄砲を作って、縁日を企画しました。中学年は学校の近くの福祉施設に行っているので、利用者さんとは名前を呼び合うくらいの仲なんです。普段は子どもたちが利用者さんのもとへ行くことが多いですが、感謝祭では利用者さんに学校へ来ていただきました。児童も地域の方も、楽しそうでしたよ。

高学年は「ICT」の授業があるので、ドローンやロボットを事前にプログラミングし、地域の方に体験いただいていました。地域の方に新しい世界を見てもらおうと、準備を重ねていたんです。

1学期には「パソコン教室」を高学年が開催し、全校の児童が先生となって地域の方に新たな世界を体験してもらっていました。それがとても好評で、「あれからスマートフォンを買ったのよ」と報告してくださった方もいたくらいでした。

感謝祭では違う分野のICTとして、ドローンやロボットの体験という新しいチャレンジをしましたが、引き続き地域の方に楽しんでいただけたようでよかったです。

授業の一環で活動できると、メリットがたくさんあります。子どもたちにとっては学びが明確になること、先生にとっては教えやすいこと、保護者の方にとっては子どもたちの学びに繋がっている実感があり、安心できること……。そこに地域の方との交流を織り交ぜることで、巨瀬地区ならではの学びが生まれるんです。私自身も、いい経験をしているなと感じています。

感謝祭の様子(写真提供:巨瀬小学校地域参画プロジェクトチーム)

―学校にも地域にも、いい循環が生まれているのですね。

福田:小規模校の子どもたちなのでね、自分を表現するのが苦手な子が多いんです。でもCSを通して、コミュニケーション力や主体性、思いやりの心などが育っていると感じます。例えば、最近見ない地域の方がいると、子どもたちから「〇〇さんどうしたんだろう」という声があがるんです。こういう学校はなかなかないと思います。

また地域の方と協議会で話していると、学校のことを一歩踏み込んで考えてくださっているなと感じます。例えば学力テストの結果を報告したときには、学校からの報告で終わるのではなく、「自分たちがこんなことできそう」「挨拶だけで終わらずに、会話をすることで言葉の力を育てられないか」などと提案してくださいました。小さい学校ですから、子どもたち一人ひとりの小さな成長を見つけて報告してくださることもあってありがたいです。

これからも、巨瀬地区全体で子どもたちを育てていけるように、学校と地域とのいい関係を築いていきたいと思います。

基盤づくり・活動の展開、各フェーズで助成金を活用

地域主催の卒業式(写真提供:巨瀬小学校地域参画プロジェクトチーム)

―なぜ福武教育文化振興財団の助成を受けたのですか?

福田:立ち上げ期の2017年度〜2019年度には、CSの基盤づくりをするために申請させていただいたと聞いています。また2022年度には、CSを今まで以上に地域と繋がる活動にするために、助成金を使わせていただきました。タイミングによって、助成を受ける目的が変わっていったと思います。

―当財団の助成を受けてよかったことは何ですか?

福田:初めは高梁市で前例がない中でスタートしたので、限られた予算で見分を広げるのがむずかしかったと聞いています。福武教育文化振興財団さんから助成を受けたことで、兵庫教育大学大学院の諏訪准教授に助言をいただく機会を作れたり、文部科学省主催のCSフォーラムに参加できたりと、学びを得られました。

また私が赴任してからは、児童発案の取り組みを具現化していくために助成を受けていました。子どもたちがやりたいことを実現し、それが地域を元気にすることに繋がったので大変助かりました。

このように、基盤づくりのうえでも、活動を展開させるうえでも、目的に合わせて柔軟に助成を受けられるのがありがたかったなと思います。

―今後の目標を教えてください。

福田:CSを続けてきたからか、学校と地域の距離が近くなってきていると感じます。最近は子どもたちからも地域の方からも、「もっと触れ合いたい」というニーズが出ているので、それに応えていけたらと思っています。

教員は異動があって、“風”のような存在ですから、何かの活動を続けることはむずかしいんです。そんな中で、常に子どもたちのことを考えてくださる地域の方がいることは、非常に心強いと感じています。

これからも学校と地域がいい関係を築けるように、地域のみなさんの力を借りながら学校運営に取り組んでいきたいと思います。

おわりに

右:和田広子財団職員

取材を終えて、巨瀬小学校のCSは学校だけでなく、地域の方、子どもたちなど、関わる人全てが主体的に取り組んできたことで続いた活動であることを実感しました。また、巨瀬地区ならではの一人ひとりとの濃い関係性が、学校や地域を作っていることを知りました。CSだけでなく、地域の活動とは、その地域の特性や住民の人柄に合わせたかたちを模索していくことが、活動を続けるうえでの鍵になるのかもしれません。

巨瀬小学校地域参画プロジェクトチーム
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