助成先を訪ね歩く(取材日:2023年8月16日)

自主性に任せたから、20年続けられた

芳明っ子文庫 岡村真美

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  • 2023.09.26

助成を受けた団体が助成金をどのように活用してきたのか、またその活動が地域にどのような影響を与えているのかを取材しました。今回は、岡山市立芳明小学校フリースクール内の活動の一つ「芳明っ子文庫」の岡村真美(おかむら まみ)さんにお話を伺ってきました。(取材・文/小溝朱里)

岡山市立芳明小学校

岡山市立芳明小学校(以下、芳明小学校)は、1982年に設立された岡山市南区に位置する小学校です。同区内の小学校23校のうち児童数が5番目に多く、574名の児童が通っています(2023年5月1日現在)。

「芳」(人格が優れている)、「明」(未来に希望や喜びが持てる)な子どもを育成してほしいという地域の願いから「芳明小学校」と名付けられました。学校教育目標である「心豊かで、たくましく生きる子どもを育てる」ことや、目指す子ども像である「進んで学ぶ子ども」の実現を目指し、学校と家庭・地域協働による様々な教育活動を実践しています。

芳明小学校には通常行われている授業のほか、土曜日や放課後、長期休暇中に子どもたちが地域の人と触れ合える場として、地域ボランティアからなる「芳明っ子フリースクール」があります。地域で子どもを育てる文化も根付いているのです。

芳明っ子文庫

芳明っ子文庫とは、芳明っ子フリースクールのうちの一つの活動として2004年にスタートしました。子どもたちが地域の人と触れ合いながら、学校や家庭では経験できないことを経験できる場をつくることを目的に設立されました。

読み聞かせ、折り紙教室、かるたの会、将棋の会、おうちの人とスポーツ「ドッジボール」、落語の会、お琴、スケート教室、そうめん流し、着付け教室、そば打ち教室など、行ってきたイベントは多岐に渡ります。毎月お便りを配布し、参加者を募ってイベントを実施しています。

芳明っ子文庫の活動の一つとして、子ども影絵劇団があります。影絵に興味のある1年生〜6年生までおり、影絵を映すための工作物を型紙やカラーフィルターなどで作成し、子どもたちが自ら演じます。

芳明っ子文庫のスタッフは、全ての活動を通して、子どもたち自身が主役となり輝ける場を提供することによって、子どもたちの健全育成の一助になればと願っています。

やりたい人が、関わりたいタイミングで活動する

右:岡村真美さん

―芳明っ子文庫の母体である、芳明っ子フリースクールはなぜ始まったのですか?

岡村(敬称略):2004年に行われた岡山市の「開かれた学校づくり事業」の一環で、できるだけ多くの地域の大人が一体となって子どもたちを見守る環境をつくり、子どもの居場所づくりを行うために立ち上げました。立ち上げたのは、当時の教頭先生の声掛けで集まった、20人くらいの保護者や地域のみなさんです。

私も立ち上げからスタッフをしています。私の子ども4人が芳明幼稚園や芳明小学校に通っていて、当時は芳明幼稚園のPTA会長をしていた縁で声を掛けていただきました。

他にも町内会長さんや母の会の会長さんなどが加わって、芳明っ子フリースクールを運営することになりました。

―なかでも芳明っ子文庫ではどのような活動を?

岡村:フリースクール内で何をやろうか話し合っている時に「読み聞かせからやりたいね」となったんです。だから「文庫」という名前を付けて企画を始めました。

読み聞かせに限らず、フリースクール内の企画はだいたい芳明っ子文庫が行っています。

―活動を始めて20年が経ちました。変化したことはありますか?

岡村:最初は全て自分たちで企画して発信していましたが、次第に地域の方や先生から「こんなことできるから、子どもたちとやらない?」と声を掛けてもらえるようになったことです。

例えばスケート教室は、以前フィギュアの国体選手だった先生が転勤してきたのがきっかけでした。「前の学校ではスケートクラブをやっていたから、芳明でもできますよ。私がコーチになります!」と言ってくださったんです。それから年に2回ほどスケート教室を行うようになり、今でも続けています。

そうめん流しは、芳明っ子フリースクールの会長さんが管理しているキャンプ場で行っています。会長自ら、そうめん流しのレーンを作成してくれます。最初は小学校内でそうめん流しをやっていたのですが、参加者が100名を超えたり、調理室はクーラーがなかったからそうめんを茹でるのが暑かったりで大変で……。

キャンプ場を借りられることになり、家族で現地へ行き、井戸水を使ってのそうめん流しができました。加えて山登り体験もできるようになりました。家族同士の触れ合いの場にもなったのです。小学生の時だからできる、おうちの人との参加は嬉しいことです。

―子ども会などの活動はあっても、20年という長い年月かつ参加者がここまで多いフリースクールの団体は、なかなかない気がします。

岡村:私たちは、やりたい人が関わりたいタイミングで活動しているんです。だから結果的に続いているんだと思います。

イベントの企画は基本的に私が行っていますが、私から「〇〇してよ」とお願いすることは、絶対にしないと決めています。興味を持ってくれた方はもちろん受け入れますが、私から個別でお願いすることはありません。

例えばイベントを企画して、当日スタッフとして手伝ってもらえる方を募る時、誰からも返事が来なくても、返事の催促はしないんです。内心「大丈夫かな?私一人じゃ無理かな」とは思いますが、ありがたいことに当日は誰か来てくれています。都合がついて、当日には集まったメンバーで実行できているんです。

学校でも家庭でも経験できないことを

―なぜ福武教育文化振興財団の助成を受けたのですか?

岡村:芳明っ子文庫を通して、地域ぐるみで子育てするようなイベントを開催したいと思い申請させていただきました。2005年に助成を受けてから、新しい取り組みを始める時に助成を受けています。

―当財団の助成を受けてよかったことは何ですか?

岡村:学校でも家庭でもできないことを子どもたちに経験させてあげられているのは、今でもいいことだなと思います。

そうめん流しやスケート教室など、企画によっては食費や会場費を集めることがあります。ただ、基本的に参加費はとっていません。福武さんの助成金を、イベント費用に充てさせていただいて大変ありがたいです。

小学校を卒業しても参加してくれたり、手伝いに来てくれたりする人もいます。みなさんに支えていただいたこのような活動が、このように地域での繋がりをつくっていることに嬉しく思います。

―今後の目標を教えてください。

岡村:私は、芳明っ子文庫の活動を「続けたい」と思う以前に、子どもたちが喜んでくれるから「次は何をやろうかな」という気持ちが湧いてくるんです。だから無理に続けようとは思わず、後任を誰かに任せようなども思わないようにしています。

みんなそれぞれ仕事や家庭があるけど、それでも「やりたい」「手伝ってみようかな」と思ってくれる人がいるから続けられている。無理をしたら、この活動はできません。これからも、やりたい人でやっていけたらいいのかなと思っています。

おわりに

右:和田広子財団職員

岡村さんは、「活動を無理に続けようとはしていない」とはっきり断言されたのが印象的な取材でした。岡村さん自身が「やりたい」と思える理由について伺うと、「子どもたちの発想や表現は、大人にはないものばかり。それがすごい」とおっしゃっていました。子どもたちへのリスペクトの気持ちも、活動を続けてこられた一つの理由なのかもしれません。

取材中、筆者自身が子どもの頃に参加していた自然体験教室のことを思い出していました。子どもの頃の楽しかった記憶は、大人になっても覚えているものです。芳明っ子文庫の企画に参加している子どもたちも、のちに振り返った時に愛おしくなる経験を積み重ねていて、それが未来への糧になっていくのだろうなと感じました。

芳明っ子文庫
岡山市南区西市660-8
問合せ先
TEL・FAX:086-245-6994