“地域社会の一員になる”をデザインする
ベトナム人技能実習生を対象に、日本語能力やコミュニケーション能力の向上を行う学習と交流の場「SHARE&CHILL!」。ベトナムの技能実習生たちが、日本の人とお互いの文化や価値観を理解しながら、地域コミュニティの一員になることを目指すホアンさんの思いを伺ってきました。(取材・文/森分志学)
ベトナム人のホアンさんが日本に興味を持ち始めたのは、中学1年生の頃。「友達と同じクラスになりたい」という理由で選んだ日本語コースで日本語を学んでいくうちに日本に関心を持ち、IPU環太平洋大学に進学。卒業した現在は岡山大学大学院教育学研究科で研究に励む傍ら、SHARE&CHILL!の活動をしています。
活動のきっかけとなったのは、大学生時代にしていた司法通訳のアルバイト。ベトナムの技能実習生が暴力事件に巻き込まれたり、人権侵害や失踪事件が多発している現状を知り、技能実習生がコミュニケーションに必要な言語教育を十分に身につけていないことが原因だと思いました。
実際、技能実習生から「日本語学習の時間数が足りない」という声は多数あるそうです。しかし、ホアンさんは「時間数の問題よりも習得方法に問題がある」と推察しています。一方的に教えるティーチングよりも、お互いに学び合うスタイルの方が楽しい学びになると考え、活動名にも「お互いに楽しく(CHILL)学び合う(SHARE)」という思いが込められています。
SHARE&CHILL!では、日本語学習以上に日本人との交流を重視し、ベトナム料理を日本人と一緒に作ったりもしています。そこには、技能実習生が地域で見えない存在になっている現状を変えるべく、彼らが人とのつながりをもち、地域社会に参加していく姿を理想とするホアンさんの思いが表されています。参加している技能実習生は「多くの友達と一緒にいることで、勉強したい気持ちを持ち続けられる。日本の文化を理解することもできた。」と言います。「とにかく日本語を勉強したい」と思って活動に参加した技能実習生たちが、参加当初は意図していなかった日本人との交流を通して、お互いの理解を深めながら関心を寄せていく。そんな景色がSHARE&CHILL!にあります。
ベトナム人の社会参加を深めていくホアンさんは、博士課程に進み「市民性形成と言語教育」について研究する予定。その研究で思い描くのは、ベトナム人が日本の人とコミュニケーションをとりながら、お互いの共生社会をつくっていく過程で言語能力を高めていく姿。その縮小社会が、まさにSHARE&CHILL!の活動にあると言えるのではないでしょうか。
「高校や公民館などと連携して様々な人たちと交流しながら、ベトナム人と日本人がお互いの理解を深め、地域社会の一員になっていける多文化共生社会を目指していきたい」とホアンさんは結びます。
(2021年5月25日 FUEKI No.75)