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“自分の想像の外”と触れる、映画と地域文化の世界

  • 知る
  • 2022.04.12

大阪で映画の仕事をしていた黒川愛さんが真庭市に移住してきたのは2010年。真庭の人たちが映画を楽しむ文化醸成を目指すcine/maniwa(以下シネマニワ)の活動に携わり、2021年からは市議会議員としてまちを支えています。地域と映画の在り方についてお話を伺ってきました。(取材・文/森分志学)

黒川さんが移住したのは10年前。「真庭の人たちと映画を観たい!」という思いから、映画監督の山崎樹一郎さんらが立ち上げたシネマニワに参加。シネマニワの活動変遷は『紅葉』『ひかりのおと』などの映画製作から始まり、製作に関わる人材育成を行うべく、ワークショップも実施するようになります。そして、公教育の中で映画に触れられるような取り組みも始めます。現在は、図書館サポーターズと呼ばれるボランティアの方々と一緒に、真庭市立図書館で月1回の上映会も行っています。また、映画祭も企画運営し、昨年はドイツ、一昨年はポーランド映画をテーマに選びました。

シネマニワをやっている黒川さんとだからこそ考えてみたい、「子どもたちにとって映画を観るとは、一体どんな意味があるのか」。あらゆる情報に触れやすくなった現代ですが、「その情報から想像される世界は、自分の想像の範囲に限られ、その中で分かった気になっていないだろうか?」と黒川さんは問います。映画で描かれるのは、そうした情報から1歩踏み込んだ世界だと。映画で紛争を扱えば、紛争という現象の奥にある背景や人々の感情まで描かれ、作り込まれます。そうした世界に、暗闇の中で集中して向き合える「自分が今いる世界とは別世界への没入体験」が、自分の現実世界を広げていきます。加えて、鑑賞が他の人との共体験になっており、1つのシーンで他の人がどんなことを感じているのかを、同じ空間にいることで何となく把握できたり、鑑賞後の対話の中で共有できたり。

文化芸術を民間の立場から支えるシネマニワ。一方、行政の側面からは、真庭市では昨年『文化芸術推進計画』が策定され、黒川さんも委員として関わりました。とあるアンケートで「過去1年間で文化芸術に親しんだ」と回答した真庭市民は40%で、全国平均の67%を下回る結果に。「文化芸術と接点を多様にするためには?」という私の問いかけに、黒川さんは自分の感情を揺さぶられるものがあることは大事だと話します。演劇のような非日常世界の文化芸術を愛する人もいれば、毎日の生活の中で感じる文化芸術もあります。例えば、薬草1つとっても、食べる薬草の会をやっている黒川さんからすれば宝物に見えますが、知らない人にとってはただの草。地域文化が、そこにあるのに見えなかった豊かさや美しさに気づくきっかけになることもあります。その点で、発酵文化や石垣など、地域の人たちの支えによって残ってきた真庭の文化は希望だと言います。

今後の野望の1つとしてみんなが楽しめる映画祭をまたやりたいと話す黒川さん。真庭市の文化芸術を盛り上げるチャレンジはまだまだ続きます。

(2022年9月25日 FUEKI No.76)