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財団と人

#30 黒川愛さん | cine/maniwa
2021.8.4

映画を楽しむ文化醸成を目指す

大阪で映画の仕事をしていた黒川愛さんが真庭市に移住してきたのは2010年。真庭の人たちが映画を楽しむ文化醸成を目指すcine/maniwa(以下シネマニワ)の活動に携わり、今年度からは真庭市市議会議員としてまちを支えています。そんな黒川さんに、地域と映画の在り方についてお話を伺ってきました。(聞き手:森分志学)

映画館のない真庭で映画を届けたい

森分 シネマニワの活動を教えてください。

黒川 設立は2007年で、映画館のない真庭で小さな種まき、育てていくという活動をしています。地域の人たちに映画を届けたいという思いがあって、その思いを次につなげたいと。映画制作や上映、映画作りのほか、映画祭の企画運営、ワークショップなどをしています。
代表の山崎樹一郎が岡山県真庭地域で起こった「山中一揆」をモチーフとした「新しき民」という映画をつくったときには、手作りのスクリーンを持って県内を巡回しました。
映画祭は、昨年はドイツの映画を取り上げました。その前は、ポーランドの映画です。

森分 ことしで14年目。長い活動になりますね。

黒川 山崎樹一郎と藤久一穂さんいう方と2人で立ち上げた団体で、真庭には映画館がないので、映画のことをやっていこうと言って、ほそぼそと上映会をしていたのが2007年。私は2009年に真庭に初めて来て、2010年に移住してからシネマニワのメンバーに入りました。
最初は小さな団体でした。今も小さな団体ですが。最初は補助金や助成金を使って何か活動しようというのではなくて、映画の上映会をして、山崎樹一郎が映画を作るときの母体みたいな感じでした。

森分 福武教育文化振興財団との出会いは。

黒川 もっと映画に対する理解を深める活動をしようということになって、初めて財団の助成金に公募したのは映画の上映に対する活動で2010年でした。その次は、「紅葉」「ひかりのおと」「新しき民」と映画をつくりながら、映画製作に携わる人材が足りないということが課題になって、だったら人材育成のワークショップをしようと助成を申請しました。地域振興に映画という手法を用いたことは新しい試みという評価をいただき2012年には、福武文化奨励賞を受賞しました。
2018、2019年頃から、また山崎樹一郎は「やまぶき」という映画づくりに取り組むのですが、その頃の私はもうちょっと地域づくりをしようと思っていて、一般社団法人やまのふねを設立して、この「FUNAYADO」の立ち上げにかかわっていました。

幼い頃から映画に触れる環境をつくりたい

森分 ワークショップや上映会をしていて、気づいたことはありますか。

黒川 家庭環境や経済格差を感じています。映画上映は有料ですが、映画に興味があるお母さんだと、お子さんと一緒に参加してくれます。が、ご家庭に余裕がないと、なかなか難しいなと。高校生にはボランティアで手伝ってくれると映画も観られますよと、声をかけますが、バイトをしながら家計を支えているから、難しいみたいな話もあって。
山崎樹一郎は映画のことをもっと浸透させていくには、小さい頃からできるだけ映画に触れてもらおうと活動しています。学校教育の一環として映画を学ぶことで、格差なく誰でも、親が映画に興味があろうがなかろうが、映画を見て映画を学べる環境づくりが大切だというので、フランスに行って映画教育を学んできて、真庭市の小学校で実践しています。

森分 変遷としては、最初は映画の上映を始めつつ、次の段階、作り手の方が少ないからワークショップ、人材育成しつつ、今はどちらかというと、見る人の方のすそ野を広げている感じですか。

黒川 すそ野をひろげるというより、届けたいというか、映画の文化を根付かせたい、映画を見ること、映画を楽しむことを地域の方と共にやっていきたいです。
2018年に開館した真庭市中央図書館にはシアターがつくられるということで、シアターをつくる前に、山崎樹一郎の他、いろいろな方が会議に参加して、どんなシアターがいいのか一緒に話をしました。
その後、中央図書館サポーターズというボランティアグループが結成されて、花壇のお世話とか、おすすめの本を選んでポップ作るとか、いろんな活動があるんですが、その中の映画の好きな人たちがいて、月1回映画活動をしています。

森分 映画にこだわる理由は。

黒川 私にしても代表の山崎にしても、映画が大好き。それがベースなんですが、もっと映画の魅力を伝えたいというか。真庭市には映画館がないので、岡山市のシネマクレールに行ったり、大阪に映画を見に行ったりしてもいいのですが、その時々、その場所で、地域の人たちと一緒に見たいというのがあります。

森分 映画には、エンタメや文化芸術など、切り口がいくつかありそうですが、そのあたりについてどのように思っていますか。

黒川 それはどっちでもよくて、更に言えば映画館でなくてお家でタブレットで見ても、どんな形でも構わないと思っています。映画館とタブレットの違いは、ハリウッド映画でも沖縄のドキュメンタリーでも、知らない人とそれを見て、その日、映画を見終わった後、知らない人としゃべらなくても、何か一緒に見たという場所があるか、ないかだと。
地域でこうやって映画上映をしていると、居場所になっているというか、そこで映画を見て何も語らずに帰っていくけど毎月来てくれ、「最近は旦那さん以外の人と話すことがなくなったから、映画を見に来て、お話ができるこういった場所があってくれて嬉しい」と言ってくれる人もいます。

いろんな世界と触れあえる2時間

森分 子どもたちにとって、映画がある世界とない世界で、変わるものがあるとしたら、それは何だと思いますか。

黒川 映画をみている2時間は、ドキュメンタリーであっても、ハリウッド映画であっても、その世界と自分とが向き合える時間。映画館は暗いところに閉じ込められて、それをみなさいとなって、人に話かけたりができなくて、集中しましょうという場。
スタジオ撮影でもロケ撮影でも、後ろの背景が映っていますよね。ブラジルの映画だったらブラジルが映ってしまうし。いろんな世界と触れ合うことができて、2時間そこに住めるというのは大きいと思っています。

森分 今住んでいる世界と全く異なる世界に没入していく体験は、もしかしたら少ないのかもしれないですね。

黒川 すごく危険だなと思うのは、例えばチュニジアで紛争が起きているということはインターネットのニュースなどですぐ見ることができ、それですごくわかった気になるというか、こんなことが起きているんだねということが、そこに人が生きているのに、それをニュースでとらえてしまって、かわいそうで終わってしまうこと。

森分 確かに、分かった気になってしまいます。

黒川 映画の魅力は、もう一つ踏み込んでその人を描くこと。ミャンマーのことであっても、岡山の一人の女の子のことと同じような苦しみ、似たようなところがあるかもしれないまで落とし込んで描かれます。

森分 例えば、紛争という現象の奥にある背景や人々の感情まで描かれ、作り込まれいてるということですね。

黒川 それを映画館の場合だと、他の人ともみるので、真っ暗な中で、誰誰さんは泣いてるとか、笑ってる子がいる、そこに対して自分の感情を出してもいいんだなと、出す出さないはありますが、そういったのもあるんじゃないかと。

森分 真っ暗な中での共体験って、映画館の他にはあまりないかもしれません。

森分 シネマニアの活動を14年してきて町の人たちの様子はどうですか。大きな変化というより、じわじわ変化していく、真庭の町はこう変わってきたなと感じることはありますか。

黒川 真庭市は5年に1回の真庭市民にアンケート調査をしていますが、「過去1年間で文化芸術に親しんだ」と回答した真庭市民は4割で、全国平均の67%を下回る結果に。5年前よりも下がっていて、私たちはこれだけ頑張ってきたのに、何をしてきたんだろうかと、ショックでした。

地域文化を大切にしていくことが大切

森分 それは、真庭市会議員に立候補されたことと関係していますか。

黒川 そうですね。もっと文化政策をやっていきたいと思って、今回立候補しました。ハイアートももちろん必要ですが、地域の文化や歴史をすごく大切にしていきたいと思っています。真庭には伝統工芸の竹細工や漆もあります。地域の方が一生懸命作っているこんにゃくもあります。日本酒、ワイン、ビール、チーズなどの発酵文化も。今、蒜山博物館では戦争の展示をしています。昔、蒜山地域あった演習所のことについて、あちこちの地元の人たちを訪ねてヒアリングして展示しています。
芸術とはまた違う地域文化をできるだけ大切にしていくことが重要じゃないかと思っています。地域に根付いたことを、人口が減少しても、それぞれ一人ひとりが取り組んだり、地域で関わっていくのがいいなと。

森分 未来に向けて、こうすればうまくいきそうだという兆しは何かありますか。

黒川 石垣が勝山はすごくきれいと言われて有名です。町並みも有名ですが、川向うからのみる借景がきれいで、石垣がきれいに残っている。草刈りもされますし。こういった景観が失われていくのは、失われやすいですが、それでも頑張って残して、何年も何年も昔から残ってきたものだと思うんです。
FUNAYADOを、やまのふねをやろうと決めたのも、建物はすごくボロボロでした。もともとは高瀬舟の時代は船宿で船頭さんとか旅人たちが使っていました。船の時代が終わって列車の時代には、その頃はまだ学生さんがここに住んだり、貧しい時代だったので長屋の時代もあったりして、みんなで共同のお風呂があったり。その時代も終わって、この20年、30年ぐらいは空き家になっていて、豪雨や台風でボロボロになっていました。

森分 空き家再生をしようと思ったのは。

黒川 土地の持ち主もいなくて、ここが平地になってしまうと、町並みにポコポコと穴が開いて、結局他の建物もつぶして駐車場になってしまうのかなと。そうなると勝山の町並み、景観が失われてしまうというので、地域の人たちが有志でまず募金を集めて、何とかここをリニューアルしよう、保存しよう、保存だけじゃなくて改修して使えるようにしようということになっていきました。
60代、70代の人が頑張られるんですが、引き継いできたものを次に残すんだという意志が感じられて、私も勝山が好きで引っ越してきたので、一緒に頑張って何とか残せるように、誰かが守ってきたものなので、やっていかないといけないなと思ったし、そんな人たちが真庭市に多いんだろうなと思いました。

森分 日常の中で文化芸術への接地面をどう作っていったらいいのかとずっと思っているんですが。

黒川 できるだけ設置面は多い方がいいんだろうなと思っています。文化って言葉は簡単に使われています。でも積み重ねられて文化になるわけで、誰かがどこかの段階ですごく力をかけて、それが一人だったりチームだったり。それで文化は作られていくと思っています。
薬草の活動もしていて、知らなければ単なる雑草ですが、知っている人から見ると宝の宝庫です。この建物の前の空き地にも薬草はたくさんあります。そういう私たちが薬草の文化を知っているからですが、その設置面をより増やしていく方が豊かになりますよね。

森分 今日の話でいくと、すぐそばにあるものと、どう対話できるかどうかという話になるのかな。それで言うと、冒頭の話に戻って、映画で今の自分がいる場所と異なる世界に没入し、その世界と対話し、感受性を大切にしていくことですか。

黒川 こんな見方があるんだっていうのを、自分は没頭するけど、他の人も没頭するわけじゃないですか。違いが見えてくるとなお楽しい。ハイアートだけじゃない、大衆な部分も好きですし、そこを行ったり来たりできるというか。ドキュメンタリーみたいなものも好き、社会性の高いものも好きだし。映画って独特の媒体だなと思います。

森分 最後に今後これをやってみたいというものは。

黒川 やっぱり、映画祭をやりたいなと思います。去年のドイツ映画祭では、映画を観なくてもちょっとでもドイツに触れてほしいなというのがあったので、ビアガーデンを企画しました。映画祭は映画の魅力を伝えるだけではないと思っているので、予算のこともありますが、細々でもやっていきたいです。

cine/maniwa
「財団と人」山崎樹一郎
フランス映画鑑賞教育と真庭市の取り組み

Profile

黒川愛

黒川愛 
KUROKAWA Ai

cine/maniwa

1976年大阪府和泉市生まれ。2010年に大阪府から真庭市に移住。cine/maniwa、中央図書館サポーターズ、真庭・食べる薬草振興協議会、勝山町並み保存地区内のFUNAYADOを運営する(一社)やまのふねなどの一員として地域と関わる。真庭市議会議員

聞き手

森分志学

森分志学 
MORIWAKE Shigaku

NPO法人だっぴ 代表理事

1990年岡山県倉敷市生まれ。大学卒業後は、教育関係の広告代理店に勤務。2017年、NPO法人だっぴの理事・事務局長として岡山にUターン。岡山の中高生・大学生を対象に、キャリア教育プログラム「中学生・高校生だっぴ」を岡山県内外12市町村20校以上の学校で展開。
NPO法人だっぴ