小学校社会科歴史学習で児童の読解力を育成する指導法の研究
研究の目的(活動の目的)
児童の読解力育成に関して学校・家庭とも関心が高まっている。しかし、読解力の指導は文章理解やグラフ・表の読み取りにとどまっていることが少なくない。そこで、本研究では、社会科歴史学習において児童の読解力育成のための指導法について探っていく。
研究の経過(活動の経過)
本研究を進める前に本研究でいう「読解力」についてある程度考えておく必要がある。本研究でいう「読解力がついた」姿とは、知識や経験等と資料を読み取る技能とを関連付けを行う思考過程を通して自分の意見や考えがもてたことである。それを歴史学習に限定するということは、体験や経験が具体的な事象のものではなく、学習経験やそれに伴う知識という半具体、抽象的なものになってくる。それは、小学校高学年から中学校以上にかけて大切になる既習事項を参考にして事象を考える力にもつながるものでもある。それが、小学校段階での歴史分野で読解力を育成する意味でもある。
しかし、小学校6年生の段階では、歴史的な内容に関する既習事項はほとんどないため、初めのうちは生活経験等につなげる授業展開が必要になってくる。そこで、1学期は、資料を読み取ることを中心に学習を進め、2学期以降は歴史的な内容に関する既習事項と資料読み取りを関連させながら学習を進めていくことにした。
1授業実践の実際
(1)めあての持たせ方
児童が資料を読み取り、知識と関連づけて説明するためには、毎回の学習でめあてを持つ「めあて学習」がよいと考えた。児童がめあてを持てるための導入に提示資料を使うことを行った。1枚の写真や絵画や2種類の資料を比較して児童に「どうして?」をつくることでめあてが持たせやすいからである。そして、児童は「どうして?」を解決していく過程で資料を読んだり、話し合ったりしながら読解力が育っていくと考えたからである。
(2)資料の読み取りについて
教科書の資料だけでなく、資料集等の資料も提示しながら資料読み取りを行った。前述したとおり、初めのうちは1つの資料から直接的に分かることを読み取ることを中心に行った。資料も写真、地図、系譜、年表というように複雑なものにしていった。それらを読み取りながら、直接的に見えないことにも教師との対話の中で気付かせるようにしていった。
1学期後半ぐらいから2つの資料を見比べながらその相違点を読み取ったり、映像資料を提示するようにした。比較分析や映像視聴は一回で多くの情報を読み取らないといけないため、視聴する視点が定まっていないと資料としての価値が下がることもあるからである。
(3)授業の具体
(ア)複数の資料からそれぞれ読み取る授業(藤原道長の勢力拡大)
めあて「道長はどのようにして力を強めていったのだろうか」を立て、3つの資料をそれぞれ提示した。藤原氏の系図、朝廷の高位についた藤原氏の割合、藤原氏の荘園分布図である。授業では全部読み取るのではなく、自分の分かるものを資料として読み取らせた。ほとんどの児童が、藤原氏の外戚関係が勢力拡大に影響していると読み取った。系譜から読み取ったのだが、これは、以前の学習で蘇我氏と天皇家の外戚関係について系譜を使って学習していたためである。なお、他の2つの資料に関しては、朝廷での高位の意味や荘園についての意味が十分知識としてなかったため資料を読み取る児童が少なかった。そのため、資料を読み取りながら学習を行う形式をとった。勢力を拡大するための要素としてその後の時代の学習を進める上で重要な知識となった(権力・財力・兵力)。なお、兵力については武士の時代からである。
(イ)絵画資料と表資料を関連づけた授業(日清日露戦争と条約改正)
本授業は日清戦争・日露戦争をとおして、日本が不平等条約改正していく学習である。めあてを「日清・日露戦争後、どうして日本は条約改正することができたのだろう」とした。ビゴーの風刺画を資料として、日本の描き方や周りの国々の描き方を読み取り当時の日本の置かれていた国際状況を理解した。児童からは、「日本の服装が着物から軍服に近代化している。」や「釣り竿が剣になっている。」などさまざまなものがあげられた。その読み取りを具体的に調べるために、資料集の日清戦争と日露戦争の戦費等の比較資料を調べ、日本が急激に近代化して、戦争に勝つことで国際社会での力を伸ばしたことに気付くことができた。
児童のまとめに表1のようなものがあった。しかし、実際には戦争に勝っただけではなく、工業の近代化や文化の西欧化、世界で活躍する日本人の存在等が関わってのことである。単元を通して、それらを関連させながら自分の考えをまとめることにつなげた。
表1児童のノート記述(まとめ)
・日清・日露戦争の後、日本は戦争に勝って、(外国も)戦争をしたら日本に負けるかもしれないと思ったから条約改正ができた。そのころ強かったロシアを倒したためその他の国も条約改正できた。
・2つの戦争に日本が勝って、日本のすごさを外国が認めたから条約改正ができた。
・日清日露戦争の後、世界の中でも強いロシアに日本は勝ったから、世界の人から認められて条約改正することができた。
研究の成果(活動の成果)
1資料読み取りから読解力につなげるために
本研究で明らかになった読解力育成の過程を示したい。
①調べさせたい情報は既習事項なのか、未既習事項なのかを明らかにして資料を選ぶ。
②資料(図・絵画)に何が描かれているか事実を確実に抜き出す。
③抜き出した事実から分かること分からないことを明らかにしながらめあてに迫る。
④2つ以上の資料を比較させながら、相違点を明らかにして資料分析をする。
⑤資料から読み取ったことを根拠をあげながら自分の言葉で説明する。
⑥映像でも以上の点を抑えながら事実を確認し、そこから分かることを根拠を付け加えて説明する。
2CRTの結果から
本研究の評価としてCRT検査(社会科)を実施した。領域別(Ⅰ国土の統一・貴族の世の中、Ⅱ武士の世の中、Ⅲ近代・現代の歴史)の得点率を見ると全国比をいずれも上回っていたことより学力は一定水準付いていることが明らかになった。また、観点別の状況では、観察・資料活用の技能に関して「十分満足できる」児童の割合が全国に比べ7%上回り(男子では20%)、「努力を要する」児童の割合も全国に比べ7%下回る結果が見られ資料読み取りの一定の学習効果があることが証明された。
今後の課題
読解力の育成に関する指導法を社会科歴史学習で行ってきたが、読解力を測定する検査が十分でないため直接的に検証することができなかった。本研究をともにした児童が、今後読解力を伸ばして学習や生活に活用することを随時見ていきたい。教師の感覚として一年間実践を重ね、事実からその周辺状況を把握して自分の言葉で説明することができるようになった児童が増えたと感じている。